となりのシャルロット


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Charlotte2007071801

 
 今回の1ヶ月弱ほどのサンフランシスコ滞在は、本当に過酷で、帰る頃には心身ともに疲れきっていました。
 だから、帰りの飛行機の中では、死んだように熟睡しようと思い、前日はほとんど寝ず、睡眠薬も用意していたのですが……

 飛行機での、僕の隣の席の人が気になって気になって、結局11時間の間、一睡もできませんでした……
 この悲劇を忘れてしまう前に、ここにメモっておこうと思います。

 
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 僕は窓際の席をとったのですが、その隣に、シャルロット・ゲンズブール似の、若い白人女性が座ってきたんです。

 そばかすがたくさんあって、長い栗色の髪の毛は、頭の上で無造作に束ねています。
 彼女はとても気さくで「東京は雨ですってね」とか「さあ、ロングフライトがはじまるわよ」とかしょっちゅう話しかけてきては、靴を脱いだり、伸びをしたりして、せわしなく動いていました。

 
 
 フライトの少し前。僕が目を閉じて、そろそろ眠ろうと思っていたとき。
 彼女の携帯が鳴りました。彼女はそれをとって、小声で何か話しています。

 彼女はほとんどしゃべらず、ずっと「イエス……オーケー……」とかばかり言っています。
 その声の調子がどことなく奇妙だったので、目を開けて彼女を見てみたら、

 
 
 
 なんと彼女、泣いているではありませんか。

 
 
 
 やめてよ! どうしても寝たいのに!
 ここで狸寝入りを決め込んだら、非情な人みたいで気分悪いじゃない!

 僕は義務感に駆られて、「大丈夫?」とかなんとか話しかけました。
 相手は涙をぬぐって、「うん大丈夫、わたしったら変ね」、と、無理に笑顔を作っていました。

 そして彼女は、自分の名前を僕に名乗りました。
 もう乗りかかった船です。眠るのはいったん中断。覚悟を決めて、少しの間、この隣の人と会話をすることにしました。

 
 
 会話の途中で、仕事の話になりました。

 
 僕:「東京へは何の用で?」

 シャルロット:「仕事よ」

 
 意外です。彼女はバカンスに行くような雰囲気だったし、また、そもそも仕事をしているような年齢には見えなかったからです。

 
 僕:「何の仕事をしているの?」

 シャルロット:「グウォゴォよ」

 
 ? 上手に聞き取れなかったので、何度か聞き返した後で、ようやく判りました。

 
 
 
 G○○○○○(一部伏字)かよ!

 
 
 
 マジで!? じゃあこの南仏を歩いてそうな少女は、もしかして天才!?
 すっかりびっくりして、つたない英語でいろいろ話しました。

 ただ、同時に僕は、眠気の限界に近づきつつありました。シャルロットの顔が2重に見えはじめています。
 僕は「また後で。ちょっと眠るね」と話を切り上げ、今度こそ寝ようと目をつぶりました。

 
 
 眠れませんでした。シャルロットが挙動不審なのです。
 退屈で仕方がない? 空が怖い? 閉所恐怖症? 体調が悪い? さっきの電話のせい? 寒い?
 何が原因かわかりませんが、彼女は映画を見たり本を読んだりすることなく、食事も完全に抜いて、始終動いています。膝を抱え込んだり、手足を動かしたり、雑誌を読もうとしてやめたり、シートベルト着用のサインが出ると同時に席を立ったりしています。

 楽しくてワクワクしている風ではありません。極めてネガティブなオーラが漂ってきます。
 起きて話し相手になった方がいいのでしょうか? でも僕の直感は、

(地雷だ。巻き込まれたらヤバい)

と告げています。
 僕にできるのは、目をつぶって、何とかして僕が熟睡してしまいますようにと祈ることくらい。時間が経つのが、恐ろしく長く感じられました。

 
 
 4時間ほど経過してから、4~5人の年配のフライト・アテンダントたちが代わる代わるシャルロットの席にやってきて、あれやこれやと一言二言話かけるようになりました。
 どうやら彼らも、シャルロットの挙動に気づいた様子です。そして僕はますます眠れなくなりました。

 60歳くらいのお爺さんのフライト・アテンダントが、彼女のそばにしゃがみこんで、何やら人生訓のようなものを語っています。
 僕はバレないようにそっと薄目を開けてその様子を見ようとしたのですが、バッチリ彼女と目が合ってしまったので、仕方なく起きて「気分はどう?」とか何とか言って、彼女が外を見たいというので窓を開けて、

シャルロット:「何も見えないわね」

僕:「うん、雲の中だからね」

みたいな会話を交わしていました。言葉だけ聞くとロマンチックに聞こえなくもないところが、ますます僕の疲労感を強めます。

 
 
 タイミングを見計らって僕は戦線から離脱し、また寝ようと試みます。
 でも……いくら頑張っても、睡眠薬飲んでも、寝れません。寝ようとすればするほど、むしろ目が冴えて行きます。
 僕がやっていることは、既に、ただの寝たフリです。

 けど、ここで起きて本でも読んで彼女を無視したり、たまに一言二言世間話を交わすだけの交流をしていても、隣の人がそんな状態なのに、なんだか不自然な気がします。
 しかし腰を据えて話し相手をするには、体力気力もありません。それに、僕みたいに英語力のない人がそんな長時間話しかけたら、相手もウザがるだろうという気もしていました。

 無視もNG、普通にしてるのもNG、ウザいのもNG。
 まさに万事窮す。
 僕は心の中で、彼女に申し訳ないと思いながら、時おり深い眠りから覚めて少し彼女と話し、また深い眠りに落ちるという演技を、その後7時間ぶっ通しで続けました。
 
 
 
 もしこれが他の日だったらもうちょっとマシな対応ができたのでしょうが……こんな、全く余裕のないときに、肉体と精神両方の限界を試されるような試練。
 成田に着く頃には、カバンも持てないほど疲労困憊しましたよ……大変だったこの1ヶ月を締めくくるにふさわしい事件でした。

 神様、どうして僕の人生は、こうネタだらけなんですか?

 
 
“5:55”
シャルロット・ゲンズブール

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