【私小説】15年前に書いていた「就職活動メモ」を見つけた


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お盆休みに実家に帰り、部屋を整理していたら、「就活メモ」なる手帳を見つけた。
15年前、僕が就職活動をしていたときの記録だ。

パラパラとめくる。気づいたら、じっくりと読みふけっていた。

ああ、当時の、22歳のときの僕は、なんと世間知らずで、視野が狭くて、無知で、経験が足りず、勘違いしていて、バカだったのだろう。
そして、なんとがむしゃらで、まっすぐで、一生懸命だったのだろう。

手帳は5月から、面談や試験や説明会の予定で埋まりはじめる。
当時は一般的に、大学4年生のGW明けから就職活動がはじまり、7月いっぱいで内定が出揃うという流れだった。就職氷河期と呼ばれていて、僕が志望していたマスコミ関係は半分くらい新規採用を見合わせているような年だったが、今のように大学3年、2年のころから就職活動の準備をはじめなくてはならない時代と比べれば、まだのんびりしていた頃なのかもしれない。

手帳は、威勢よく大きな字で、この一言からはじまる。

「オレたちはゴルバチョフになる!!!」

我ながら何を意味しているのか全くわからない。当時の自分の精神状態をしばし疑ったが、そのうち思い出した。

ゴルバチョフはソ連書記長になるまでは、ひたすら上司に忠実で、汚れ仕事も進んで引き受けていたそうだ。そして無難に書記長になったとたん本性を剥き出して、ペレストロイカとグラスノスチを断行、ソ連と周辺共産主義国家の崩壊を導いた。
その彼のようになろうと、僕は友だちと決意しあったのだ。
会社に入って偉くなって、その後で社会を変革しよう、それまでは爪を隠して頑張ろう、そう誓ったのだ。確か渋谷のthe roomというクラブで、月光という名の日本酒ベースのカクテルを飲みながら。

なんでそう誓う結論に至ったのだろう。偉くならないと何もできないというわけでもあるまいに。
15年経った今となっては、まるで経緯を思い出せない。頭髪だけがゴルバチョフに近づきつつあり、不安だ。

手帳は、面接のスケジュールと志望動機や自己分析などのメモで、ビッシリと埋まっている。

志望動機は、最初の方は、まあぎこちないったらありゃしない。例えば「貴社の将来性と出版物に惹かれ、また、編集という業務に憧れておりました」といった調子だ。
自己アピールも、当時やっていたバンドとバイトを一生懸命アピールしてる。
今は採用する側に回った僕は、読みながらこうダメ出しする。これでは何も語っていないに等しい、これなら黙っていた方がまだいい。

しかし、当時の僕には、他に何も言うことが思いつかなかったのだ。
今ならわかる。あの頃、あまりにも些細なので思い出しもすらしなかったことに、生き生きと僕の人となりを伝え、担当官に興味を持たせ、一緒に働きたいと思わせる種がたくさん転がっていたことを。

小学生の頃はプログラミングが趣味だったこと。中学生の頃はずっとワープロで小説を書いていたこと。高校生のときに最初にできた彼女は霊能力者だったこと。年間100冊以上のペースで読書していたこと。パソコンのゲームを50本近くプレイしたこと。バイト先で裏で連載コラムと自作のmixテープを販売していたこと。親に怒られないように、いつも夜が明ける前に2時間かけて歩いてクラブから帰っていたこと。告白して振られた現場を母に目撃されたこと。

そういうささやかな伝説を語っていた方が良かった。それなら当時でも、具体名をあげながら、いくらでも語れたはずだった。

就職活動の最初の方で、就活マニュアルを中途半端に読んだり聞いたりしたのがいけなかった。
自分の手持ちで勝負しようと腹をくくらず、綺麗なうわべを整え誤摩化そうとして、かえって魅力が半減していた。

案の定、面接は全然通らなかった。

手帳の上で、不採用通知の度に、僕がどんどん自信をなくしていく。

そして、何故自分の想いが伝わらなかったのか悩み、自問自答を繰り返す。
友だちにも相談している。僕のどこが良いか、どこが悪いか、一生懸命聞いている。友だちも、忌憚ない意見を言ってくれている。

振り返ってみると、これは貴重な時期だ。
これだけ徹底的に自分と向き合うことってそうないし、他の人に自分について語ってもらえることもない。他の人から見た自分の価値を突き詰めることも珍しい。

今の僕は、当時と比較すれば、多くの能力、経験、友、実績を得た。そんな自分から見ると、就職活動している時の自分の努力の無駄さ加減と空回り加減、何がどうダメなのかがハッキリとわかる。
しかし一方で、あの時にしかなかったものもある。あの当時の僕は、何事も正面から受け止めて、一生懸命対峙していた。まさに奮闘していた。自分とは何者か、他から見たときの自分の価値とは何か、真剣に自問自答し続ける日々だった。
その一生懸命さは、胸を打つ。手帳を読み進めていた僕の涙腺は、何度もゆるんだ。

古代のイニシエーションや元服は、現代日本においては、就職活動という形で残っているのかもしれない。

面接が続いている会社はどんどん減っていき、一方で、自己分析はどんどん磨きがかかっていく。
反省に反省を重ねた結果、少しずつ、自分が何にどう興味があるのか、どう面接に臨めばいいのかに、僕は気づいていっていた。

一方で、僕は7月いっぱいで、全ての会社から不採用の通知を受けた。
周囲では僕1人だった。他の人は全員、何らかの内定を勝ち得ていた。

僕だけ、就職活動に失敗したのだ。

未だに覚えている。あの時期は辛かった。
社会に出て頑張ろうにも、その最初のスタートラインに立たせてもらえない。そう感じて落ち込んだ。
大学院、留学、フリーランス、インターン、起業。そういうオプションは考えられなかった。内定すらもらえないヤツがそんなことしても、成功するはずがない。
友だちから同情されるのが嫌で、急速に疎遠になっていった。
当時はインターネットもなかったので、同じ境遇の仲間を探し、慰めあい情報交換することもできなかった。
お先真っ暗で、ただただ自分の将来が不安だった。

あのとき僕がもう一度立ち上がれたのは、親の言葉のおかげだった。

「先の先まで考えない。先のことなんて実際誰にもわからないから、考えると落ち込んでしまう」
「先のことまで考えすぎると、手前のことがおろそかになる」
「はじめから上手くいくことなんてない」
「目の前のことにチャレンジ。それを繰り返していけばいい」
「きっと水面は近くにある。それを信じて、諦めるな」

僕は、これらをしきりに自分に言い聞かせ、新卒採用の資料を集め直し、合同説明会に行き、先輩に会い、カレンダーを埋めはじめた。

この頃になると、手帳は、次の面接や試験の予定だけになっていく。
もう、何をどうしたらいいのか、いや、僕は結局どういう風にしかできないか、だいたいわかっていた。

僕は良いところも悪いところも、自分自身を受け入れていた。
隠す必要はない。あとはやるだけだ。
そう、腹をくくれていた。

結果として、面接官に気に入られようと一生懸命自分を飾ることなく、自然体で落ち着いて、フラットな気持ちで面接を受けることができた。

それが良かったのだと思う。

カレンダーの8月26日。
そこには大きな大きな字で、「内定!!!」と書かれている。

忘れもしないあの日。嵐の日だった。
電話が鳴った。とった。雨音と雷鳴の轟と共に「おめでとうございます。内定です」という声が受話器から流れてきた。
まるで、その後の激しい日々を象徴するようなワンシーンだった。

とうとう内定をもらったのだ。
嬉しかった。外の天気とは裏腹に、晴れやかな気持ちだった。ようやく生きる扉が開かれたように思えた。
15年ぶりに、あのときの喜びを思い出した。

ここで手帳は終わっている。力尽きて他社の面接を進める気力が失せたのだろう。
でも僕はその後、12年間ここで働くことになるし、多くの異動とすったもんだを経て、就職活動後半で口にするようになった自分の希望を、ささやかながら実現することができたので、内定はあの一社で良かったのだ。

就職活動後半で口にするようになった自分の希望。それは、「文化を創りたい」ということ。

この言葉は、手帳の後半に繰り返し出てくる。
この15年間、手帳を見るまで、すっかり忘れていた言葉だ。しかし僕の仕事は確かにずっと、文化を創ろうという努力の連続に思える。

15年前の僕は、22歳にして、僕が本当に願っていることをわかっていたのだ。それを知って、嬉しくなった。
いろいろ間違っていたけど、本質の部分は合っていた。ちゃんと掴んでいた。

当時の僕は、確かに僕だ。

 
 
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読んでお気づきかと思いますが、半分くらい実話です。私小説風というやつなのでしょうか?

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追記:「今の僕は、当時と比較すれば、」以降の段落を追加。一番書きたい段落を抜かしてた!

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