今日、原宿Blue Jay Wayで、熊谷和徳(KAZU)のタップダンスを見てきました。
熊谷和徳。この名前は、覚えておいて損はありません。ごく稀にしか見ることのできない、本物の輝きを放つアーティストです。確実に、次世代を担う才能の1つと言えます。
彼の楽器は「足」。タップダンスです。しかし彼のタップダンスは、いわゆるブロードウェイミュージカルのような、綺麗に踊るタイプのものではありません。
彼は、まるで全身がドラムのスティックになったかのように、時に強烈に、時に優しく地面を叩きます。その音は、今までのタップダンスの概念を覆すような、超重低音かつ超高速。緩急も強弱も自在。彼を全く知らない人でも、思わず目と耳を全て奪われてしまうほどの衝撃です。
KAZUは、普段はもの静かで、笑顔の素朴な青年なのですが、ひとたび踊りだすと、人が変わったようになります。目はうつろになり、全身の毛穴は開き、髪の毛も洋服も汗でグチャグチャ。吸っちゃいけないクスリをやっちゃったんじゃないかと思われるほど、気が狂ったように手を振り回す。そして、それが格好いいんです。日本人なのに、むせ返るほどのファンクネスを感じるのです。
彼は、ステージの上で、どんどん音の中に入っていきます。今日はSembelloという、東京スカパラダイスオーケストラのピアニスト沖祐市とサックス奏者田中邦和のユニットと共演していたのですが、KAZUは、2人の半ば即興な演奏に深く深くもぐりこんで、その中からリズムを紡ぎだし、自らも踊っていました。どんどん細かく、どんどん濃くなっていくフリーセッション。それは息を呑むような光景です。いったい最後はどこに辿りつくのか、まるで予測不能。今まで死ぬほどダンスのショーやバトルを見てきましたが、これほどの緊張感と迫力は、めったにお目にかかれるものではありません。
KAZUはタップダンスについて、以下のように発言しています。
タップダンスのルーツは、話すことを禁じられ、歌うことも許されなかった黒人たちが考え出した、コミュニケーションをとるための手段であったといいます。 今の時代に生きる僕たちにとっても、タップダンスそして音楽は、自分自身の意思を表し感情を表現するための手段として、国境を越え人種を超えて生き続けています。
今夜のライブは、彼の恩師の1人であり、最も偉大なタップダンサーの1人でもある、故グレゴリー・ハインズに捧げられていました。また彼は、ライブの中で、数年前に亡くなったもう1人の恩師に教わったステップを再現し、「彼がここにいなくても、こうして彼のステップを踏むと、彼とコミュニケーションしているなと感じます」と言っていました。
そう、彼にとって、タップダンスはコミュニケーションなのです。自分の中の何かを表現するために、彼はタップで音を刻みます。ダンスとしてタップを見せるのではなく、タップの音を聞かせようとします。だから彼のタップには、音の1つ1つにメッセージが込められています。その情報量の多さが、彼の音を、他のタップダンサーの音と決定的に違うものにしているのだと思います。
彼の音には、メッセージ性があり、細やかでかつ迫力があります。スピリチュアルです。タップダンサーでスピリチュアル性をも感じさせてしまうとは……只者ではありません。
KAZUは、トニー賞を受賞したオフブロードウェイ・ストリートタップミュージカル「NOISE&FUNK」のオーディションに合格した経験を持つダンサーです(NOISE&FUNK、先日日本にも来日していましたね。「タップ王」とかテレビで言われてましたけど)。また、ニッティングファクトリー、タップ・シティ・ガーラなど、ニューヨーク各地の有名なタップダンスのフェスティバルに出演し、ヴィレッジボイズやNY TIMESなどでも紹介され、「日本のグレゴリー・ハインズ」と称されていました。
帰国後も、熊川哲也、東京スカパラダイスオーケストラ、United Future Organization、日野皓正、マンディ満ちるなどと精力的に共演し、また、エレクトロニカ関係やフリージャズ関係の人たちとミニライブも重ねています。時折渋谷でストリートパフォーマンスもしているとか。
ストライプスの活躍や映画「座頭市」などで、日本でもタップダンスブームが起こりつつありますが、熊谷和徳ことKAZUは、そんな日本タップダンスシーンの大本命です。彼の本物のスキルとセンスは、今後長い間に渡って、多くの人に感激と感動を与え続けていくに違いありません。
僕も、これからもずっと、KAZUのライブをチェックしていき続けます。みなさんも、ぜひ一度見てみてください。驚くこと間違いなし。感動すること間違いなし。何人かは人生すら変わってしまうかもしれません。僕の今年一番のオススメです。
最後に、興味を持った方のために、KAZUの今後のスケジュールと、Webで見つかるKAZUの情報一覧を付記します。
判ってる範囲のスケジュール:
・12月10日(水)at CLUB CITTA'川崎 19:30~
・12月21日(日)at 神戸、湊川神社 能楽堂 神能殿
「神社仏閣シリーズVol.3 神のこどもたちはみな踊る」
・12月26日(金)at 原宿Blue Jay Way 20:00~
・01月30日(金)品川グローリア・チャペル
「神社仏閣シリーズVol.5 神のこどもたちはみな踊る」
・02月12日(木)at 青山円形劇場 初のワンマン公演!
判ってる範囲のKAZU情報:
・公式ページ
・個人ページ
・インタビュー
追加情報2004/11/20:
熊谷和徳のDVDが発売されます! 彼の脅威のタップをお茶の間でお気軽に!
TAP THE MUSIC
熊谷和徳
定価2,940円