もうすぐ花見も終わりですね。
花見と言えば、僕には、日本の未来を憂うきっかけとなった、忘れられない思い出があります。
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もう何年前になるでしょうか?
僕は上野公園で、お花見をしていました。
一緒に飲んでたメンツは、当時のタイガーマウンテンの仲間たち。
20人くらいで飲んでいたのですが、ここではそのうちの2人だけ、頭にとどめておけばいいでしょう。
A氏:当時30歳くらい。全身がピアスと刺青に覆われた、明らかにワル。
B氏:医学部研修生。なぜか聴診器を持ち歩いている。
さて。
夜も更け、宴もたけなわになってきたころ、急に隣のグループが僕らに絡みだしました。
隣は20歳前後くらいの、大学生かフリーターかという集団。
全員茶髪で汚い格好をして、酒のせいで妙に勢いづいていました。
そんな彼らが、「なんだテメーらうるせーぞー!」と怒鳴り込んできたのです。
僕らは大喜び。
なにこのガキどもやっちゃっていいの!? いじっちゃっていいの!? と、全員が膝立ち状態になりました。
で、A氏がさっそく、学生集団のド真ん中に乗り込んでいったんですね。僕も行ったんだっけな?
「んーなんだお前ら、聞こえねーんだけど? なになーにー?」みたいなノリで。
学生集団は、A氏の風体を見て、さっそく軽くビビッてしまいました。
戦わずして勝敗がついてしまった感じです。
あとはこっちの思い通りなのですが……なんかつまんなかったし、基本的に僕らは平和主義者だし、花見でめでたいので、ちょっと学生たちと話でもしようかと思った矢先。
B氏が、そっと、A氏に聴診器を手渡しました。
聴診器を渡されたら当たり前の行動ですが、A氏はそれを耳にはめて、
「んー? お前ら大丈夫かー? 診察しちゃうぞー?」
と学生の腹に聴診器をあてはじめたのです。
予想外の出来事が起きたのは、その後でした。
学生の目が、急に輝きだしたのです。
なんか浮き足立っています。
そう、これは、リスペクトの態度ではないですか。
ビートルズに相対したグルーピーのような、親愛と尊敬に満ちた姿勢です。
学生の1人が、こう叫びました。
「ワルで医者って、超カッコいいっスよ!」
いやいや!
この人医者でもなんでもないから!
ただのワルだから!
でも調子に乗ったA氏は、全然間違いを訂正しようとしません。
「なんだーお前ら、診察されたいのかー? あーん?」
と、自分のものではない聴診器を自由自在に振りかざしています。
学生は狂喜乱舞。
「超カッコいいっすよ!」
「ワルで医者、たまんねえっすよ!」
しまいには、みつぎものなのでしょうか? 自分たちの持っている酒やらお菓子やらを、あるだけ僕らに差し出しはじめる始末。
僕は思いました。
「若者はバカだ」
と。
あのさ、いくら酒が入ってたからといって、こんなに簡単に騙されちゃって……お兄さんは日本全体の将来が心配になってきたよ。
A氏B氏も含め、僕らはすっかり彼らに飽き飽きしてしまったのですが、彼らは興奮した面持ちで、いつまでもいつまでも僕たちに手を振っていました。
彼ら、今ごろ何してるんだろうな?
未だに「全身ピアスと刺青の、超ワルで格好いい医者が日本にいるんだよ」と言いまわってるのかな? 全然勘違いなのにね……
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