ペルセポリスI イランの少女マルジ
マルジャン・サトラピ (著), 園田 恵子 (翻訳)
イランの人たちだって僕らと同じ人間だ、というのは、頭ではわかってはいるのですが、じゃあいざ実際にどこがどのように同じでどこは違うのかという、肌感覚での理解となると、イランの映画も本も音楽も詳しくない人が僕とかには、なかなか難しいものがあります。
なので、このマンガ「ペルセポリスI イランの少女マルジ」「ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る」は、単に面白かっただけではなく、僕にとって、一般教養としてもとても意味のあるものでした。
読みやすいし、イラストとしても楽しめるし、イランの市井の人々の暮らしや生活や会話内容を、リアルに感じることができます。
あらすじは以下の通り。
主人公の女の子マルジは、10才のとき、イスラム革命を体験します。
それまで一緒のクラスだった男女が別々に分けられ、頭にヴェールを被ることを義務づけられ、デモや闘争で多くの人が犠牲になるのを目の当たりにし、その他にもたくさんの経験をしながら、それでも友だちと笑いあったり、パンクが好きになったりして、思春期を思春期の子らしく過ごしていきます。
14才になったとき、イラン・イラク戦争の戦禍を逃れるため、1人オーストリアに行くことになります。しかしあまりにも育ってきた環境が違いすぎて、話の通じる仲間を見つけられません。孤独の中、西洋の文化に触れていき、でも結局心を許せる人と出会うことができず、単にイラン人だという理由だけでテロリスト扱いされ、耐えられずに数年でイランに戻ります。
イランに戻ってから、彼女はアートの大学に入り、仲間や恋人を見つけ、大学生らしい生活を謳歌します。結婚までします。しかし政治体制や過激派の宗教思想に疑問を持ち、西洋の空気を知ってしまった彼女は完全に溶け込むことはできず……みたいな話です。
ストーリーは以上の通りなのですが、全体としては暗いトーンはありません。むしろ明るく楽しく日常を過ごすイランの人々が、強く印象に残ります。そもそもの伝統なのか状況のせいなのか、親族同士の結びつきや家族の絆が濃いんですよね。
また、「人々は僕らと同じだけど、政治体制によってこれほどまでに思想が歪んでしまう部分もあるのか」ということにも気づきます。その意味でこれは、イランだけの問題ではなく、いつなんどき僕たち日本人や他の国の人々に降りかかってもおかしくない、普遍的な災厄です。
絵も素晴らしいです。著者はイラストレーターとしても著名だそうですが、確かに、スクリーントーンを使わない。白と黒だけで構成されたコマは、少し古風で、でも今風でポップで、不思議と惹きつけられます。例えばこんな感じ。
サラリと気楽に読めてしまうのに、なにやらとても大事なことを知った気がするこのマンガ。世界中でベストセラーになっているのもむべなるかな、と思います。
ぜひご家族でどうぞ。友だちにも貸してあげてください。