はるか太古の昔、人類の主要なタンパク源は、動物とか大豆とかではなくて、虫だったそうです。
人々は森を歩きながら、日常的に、おやつ代わりに虫をつまんでは口に放り込んでいたとか。
今でもイナゴの佃煮とかあるけど、さすがに道でくつろいでいる虫をいきなり食べるのは抵抗あるよね、という話をしていたら、そのうちの1人が、
「え? 札幌では普通だけど?」
というではありませんか。
あまりにも意外な話です。なんで? 寒いから?
「いや、食べるというか、勝手に『雪虫』が口に入ってくる」
雪虫?
「札幌には街中にいるんだよ。小さな羽虫で、歩いてると勝手にどんどん口の中に入ってくるんだよ」
クジラが泳ぎながらプランクトンをガンガン胃に取り込んでいくのと同じイメージですかね……想像しただけで口の中に苦い味が広がってきそうです。札幌の人はどういう対策をしているの?
「対策なんてしてないよ」
というと?
「札幌の人は平気なんだよ。慣れているっていうか、むしろ少し嬉しそうに、ガンガン食べてるよ」
僕の友人の中には、札幌出身の人も、かつて札幌に住んでいたことのある人も、そして現在も札幌在中の人もいますが、とても宙を漂う虫を嬉々として食しているようには見えません……ウソくせえな……到底素直には信じがたい話です。
でも改めてよく考えてみると、一度慣れてしまえば、それほど悪い話ではないのかもしれないと思いました。
というのも、日常的に虫を体内に取り込んでいるのであれば、常にある程度の栄養素は摂取済みということになるからです。しかも糖分や炭水化物はそこには含まれていません。これはダイエットには効果的な気がするのです。
また、街の虫を食すという行為には、個々の家計のエンゲル係数を押し下げる効果も期待でき、それによって北海道在中の人は日本の他の地域の人々よりも、より人間的で文化的な活動に多くの金銭を割り当てることができるようになっているかもしれません。だから蝦夷ロックとかThe Blue Herbとかmoleとか水曜どうでしょうとか旭山動物園とか雪まつりとかが出てくるのかも。
あと、これは僕の周囲だけかもしれないですが、北海道って……美人が多くないですか?
それもこれも、すべて虫を毎日食べているおかげだとしたら……
でも僕は、やはり遠慮申し上げたいですね。
もし万が一この話が本当だったとしても、自分の生活に取り込むのはムシしたいところです。
LIFE STORY
BLUE HERB
旭山動物園園長が語る命のメッセージ
小菅 正夫 (著)