サンフランシスコでクラブに行って、泣きながら帰ってきました。
今回の旅は異常に忙しく、夜に出歩くチャンスや体力はずっとなかったのですが、週末、部屋でくたばっていたら、
「いま気合いを入れて、クラブに行くべし」
と天啓を受け、疲れきった身体を引きずるようにして、夜の街へと繰り出したのです。
急に思い立ったことなので、メンツは僕1人。
久しぶりに夜中に街を歩いてみると、なんだか自分が生き生きと蘇ってくるようです。ああやはり僕は夜行性なのだなあとしみじみ感じながら、「1015 Folsom」というクラブへ向かいました。
1015 Folsomは、サンフランシスコで一番大きいクラブだそうです。もちろんクラブはイベントによって大きく当たり外れが変わってきますが、とりあえず一番メジャーなところに行っておけば、外れの日だったとしてもそう間違うことはないだろうというのが、僕の予想でした。
予想は、大きく外れました。
入ってみると、大昔のディスコのような、天井や床がとりあえずボンヤリと光っているみたいな安っぽい空間が眼に飛び込んできました。天井も低く、妙に明るい。暗闇の中で音に身を任せて踊るといったクラブ的な雰囲気は微塵も感じません。
他にも、地下とかにフロアがあったのですが、だいたいどこも同じような感じでした。
まあしばらく様子を見てみようかと思い、一番混んでいるフロアに戻り、壁に背をつけて、フロアを眺めていました。
流れている曲は流行りもののR&Bやヒップホップ。
フロアにいる人たちは、たいていグループ単位で、輪になって踊っていました。
MTVの影響でしょうか? みんな腰を振るダンスを踊っています。
僕の目の前で、東南アジア系の大学生とおぼしき男女10人が、気が狂ったように腰を振って踊っています。
彼らは、四つん這いになって腰を振ったり、数珠つなぎになって腰を振ったりしながら、キャアキャアとはしゃぎおしゃべりし、そして互いにバシャバシャと写真を撮りあっています。
その手前では、インド人男性1人中国系女性2人が、これまた男1人を女2人が挟み込んで腰を触り合うみたいなダンスを踊っています。
ふと右を見ると、スペイン系の白人の男女がいました。男性は女性をだっこして、ゆっさゆっさと揺らしています。
ふと左を見ると、アイリッシュなおじさんが、それはそれは見事な白人ダンスを披露しています。
僕は、誰も話し相手がいないので、じっと無言で押し黙ったまま、フロアを見続けていました。
東南アジア人学生の集団腰振り運動は、ますます激しさを増していきます。髪の毛も振り乱しはじめました。キャーキャーワーワーと騒ぎまくっています。そしてますます写真を撮りあっています。
人間はサルが進化したのだということがとてもよく判る光景でした。
4mくらい遠くにいた東南アジア系の女の子が、急に僕によってきて、ユータッチミーだとかなんだとか言って激怒してきました。いやいやお前と俺は4m離れていただろうと。そのうちに怒りの矛先を、さらに4m離れたゲルマンっぽい男性に向けていきました。なんだろうあれは?
中国系女性2人は、インド人男性があまりにもタッチしまくってくるので辟易しているのですが、でもやはりそこは女心。インド人が1人と執拗に絡むと、もう1人はなんだかカチンとくるらしく、大胆に腰に手を回したり、インド人に身体を押し付けたりしています。
そんな細かい人間模様をじっくりと観察できるほど、他に見るものが思い当たりません。
駅弁中のスペイン人は、ますますはげしく揺らしながら、とうとうフロアを走り回りはじめました。
白人ダンスを披露してくれたダンサーは、疲れて床にへたり込んでいます。
僕は無言で、ただ目の前で繰り広げられる光景を見つめ続けました。
そんな感じで2時間が経過……
誰かこれはウソだと言って(号泣)!
何このレッドゾーンを越えたダサさは!? 今回の旅の唯一のクラブ体験がこれですか!?
全く踊りたいという気になりません。僕はレリーフのように壁にへばりつき続けました。
ふと隣を見ると、黒人青年と目があいました。
やはり彼も、僕と同じように、さっきからずっと呆然と立ち尽くしていたんです。
たぶん僕と同じような境遇なんでしょうね。彼は力なく、「今日はもう帰るよ……」とつぶやきました。
僕も帰ることにしました。時刻はAM 2:00。途中いくつかクラブがありましたが、もう入ろうという気は起きませんでした……
数年前サンフランシスコで体験したクラブは素晴らしかったのですが……やはりイベントを選ぶのは大事ですね……
Friday Night in San Francisco
Al di Meola (アーティスト), John McLaughlin (アーティスト), Paco de Lucza (アーティスト)