若桑みどり先生、死去


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Wakakuwa2007100501

 
 学校にはついぞ縁がなく、思い出すらほとんどない僕ですが、そんな中で唯一の恩師と呼べる若桑みどり先生が、先日亡くなられました。

 はじめて先生の講義を受けたのは、大学1年生のころ。満員の教室で、中世のキリスト教絵画や静物画の裏に、どのような反キリスト教的、あるいは反政治的なメッセージが隠されているのかといった「イコノロジー(図像解釈学)」という学問を、具体的に絵画を分析しながら説明するその授業は、まるで推理小説かと思われるくらい魅力的でした。
 課題のレポートは「文学作品や芸術作品における、地水火風の4元素について」。題材としてマンガを選んではいけないと言われたにも関わらず、僕はデビルマンを元ネタにして、妙に一生懸命レポートを書きました。
 結果は「A」でした。

 芸術の世界が面白いと思い、僕は経済学部だったにも関わらず、その後ずっと若桑先生の研究室に入り浸りました。イコノロジーだけではなく、中世絵画全体、マニエリズム、現代芸術、そしてフェミニズムやジェンダーについても、研究し、議論し、論文を書きました。ご自宅にもお邪魔させていただき、そのものすごい数の蔵書に圧倒されたりもしました。卒論も「経済と芸術」という大げさなタイトルで、資本主義社会以降の芸術のあり方の変化をまとめるというハイブリッドなものになりました(ベンヤミン+ローリング・ストーンズ+ZOO)。

 若桑先生は、常に学問を愛していて、能弁で、やや攻撃的で、ユーモアに溢れていました。ウチの大学が何故ダメなのか。それは中心がないからだ。西洋の町並みのように、中心を明確に設定し、噴水や花壇を配し、人が集まる場を作るべきだと主張し、実際に実現に向けて動いたりしていました。
 知の巨人でありながらも、活動家でした。そして、知性と感情が見事にミックスされていました。

 若桑先生のおかげで、僕は芸術や哲学、美について敏感になり、興味を持つようになりました。
 また、知識と、それを咀嚼して自分の考えをまとめておくことが、いかにパワフルな武器となるのかを知りました。
 そして日常の中で引っかかったことを、そのまま流さないで、キチンと問題意識として捕らえることができるようになりました。
 何よりも、熱中できる仕事を見つけ、それに誠実に全力でまい進することが、どれだけ深い満足感を与えてくれるのかといったことを、見せつけてくれました。僕は若桑先生にあって、はじめて「大人になるのも悪くないかもな」と思ったのでした。

 就職活動のとき、大学院に行こうかどうしようかと悩んでいた僕に、若桑先生は、「あなたは社会を見てらっしゃい」と言ってくださいました。今思うと、進路に対するアドバイスはそれだけでしたが、今でも良いアドバイスだったと思っています。
 若桑先生、あれだけエネルギッシュにご活躍されて、さぞかしお疲れになったことでしょう。ごゆっくりお休みください。
 心よりご冥福をお祈り申し上げます。そして、本当にありがとうございました。

 
 
都市のイコノロジー―人間の空間
若桑 みどり (著)

最初に読むのにオススメの本です。短いコラム形式で、日常で接する街並みなどについて、何が良くて何が悪いか、そしてそれは何故か、とても判りやすくそしてユーモラスに説明してくれています。

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美術史家の若桑みどりさん死去より:

 ジェンダーの視点からの美術史研究で知られる、千葉大名誉教授の若桑みどり(わかくわ・みどり)さんが、3日午前3時ごろ、虚血性心不全のため、東京都世田谷区の自宅で死去した。71歳だった。通夜は5日午後6時、葬儀は6日午後1時30分から東京都世田谷区北沢1の45の12のカトリック世田谷教会で。喪主は長男比織(ひおり)さん。

 東京生まれ。東京芸大卒業後、イタリア留学を経て東京芸大教授、千葉大教授、川村学園女子大教授を歴任。イタリア美術史が専門で、美術における女性の位置についてのジェンダー研究や発言も多く、ジェンダー文化研究所を主宰している。80年に「寓意(ぐうい)と象徴の女性像」でサントリー学芸賞、「薔薇(ばら)のイコノロジー」で84年度芸術選奨文部大臣賞、03年に紫綬褒章。04年には「クアトロ・ラガッツィ――天正少年使節と世界帝国」で大佛次郎賞を受賞している。

 ロシア文学者の川端香男里さんの妹。

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