先週の土曜日は中秋の名月でしたよね。雲もうっすらとかかり、月が大変に美しい夜でした。
やや乙女男子気分だった僕は、綺麗な写真でも撮ろうと思い、愛機のGH-1を持って外に出たのです。
まさか、あんな出来事が待ち構えていようとは。
--------------------
外に出たのは夜中、たぶん夜中の1時くらい。
マンションの玄関口を出て、道の中ほどで、月が綺麗に見えるところを確認します。
近くを3人組の、クローズみたいなヤンキーが通り過ぎようとしていました。
真ん中のヤツは、上下白のジャージ、短髪で細い眉毛をしています。
あとの2人は黒っぽい服装で、スタジャンぽいのを着てます。
片方は背は低いけど魔裟斗っぽい髪と顔をしてました。
まあこの辺では珍しい光景ではないので、特に気にも留めず、カメラを上に向かって構えたら、
突然白ジャージのヤンキーが、こっちに向かって歩いてきたのです。
やめてよ! 頭の中でキル・ビルの曲が流れだします。乙女男子とか、そういう浮ついたものは完璧にフッ飛びました。
いやホント勘弁して欲しい。なにこの展開。僕、何か悪いことしたっけ?
……このカメラ高かったんだけどなあ。いざとなったらこいつをブンまわすしかないか……
……こんなことなら、やっぱ最近近所に開校したグレイシー柔術道場に通っとくんだったなあ……
ほんの数秒のうちに、いろんな覚悟が頭をよぎります。
そんなこちらの緊張もしらず、白ジャージヤンキーは、両手をポケットに突っ込んで大またに歩み寄ってきて、こう言ったんです。
「大人なのにピアスって、超カッコいいっスよー」
何?
どういうこと? 普通の会話?
少なくとも、どうやら敵意は全然なさそうです。
むしろ、年齢差はあれどオレたち同じ電波出してるよね系の、親しげな空気を感じます。
僕は、すぐに作戦を切り替えました。
ここは相手の気分を害してはならない。この波に乗っておくべきだ。
僕は、内面のドキドキを押し殺し、いかにもラフでフレンドリーな感じで、
「ああ、最近は普通っスよ」
と返しました。
フレンドリー作戦が成功しすぎてしまったのでしょうか?
ヤンキーは立ち去りません。そして、
「カメラ、ゴツいっすねー。プロっすか?」
と、僕のGH-1を指差してきたのです。
もしかしたら、彼は最初からカメラに興味があったのかもしれません。この時点で、なんか少しヤンキーのことが可愛く思えてきたのですが、でも仲良くする気は全くなくとっとと撮影して家に帰りたかったので、僕は話を膨らませずに、あいまいな笑みを返しておきました。
ここで白ジャージは他の2人に呼ばれたので、「ちーっす」とか「ちょりーっす」とか何とか言って、去っていきました。
どうやら無事に何かを潜り抜けたらしい僕は、当初の目的を思い出し、ちゅーしゅーのなんとかを撮影しました。これです。
ピントがイマイチ合ってないのは、僕が震えていたせいではありません。
クローズ 1 完全版
高橋 ヒロシ (著)