買ってからしばらく放置していたライトノベル「とある飛空士への追憶」を、先日すぱじろうで読了し、アラビアータをすすりながら、もらい泣きしてしまいました。
とある飛空士への追憶
犬村 小六 (著), 森沢 晴行 (イラスト)
とてもベタなお話です。けれど、そのベタさ加減のブレンドが絶妙でして。
素直にベタに興奮し、ベタに感動できます。読んでいる途中も、読了後もすがすがしい気持ちになれ、自然と笑みがこぼれてきます。
難しいこと考えずに、シンプルに物語を楽しみたい、感動したい、そんな方にオススメです。
既に超有名な作品なので読んだことある方も多いと思いますが……
あらすじはこんな感じ。
「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」。レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!?―圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる!蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。(Amazonより)
傭兵とお姫様が、飛行機で、2人きりで、敵の陣営の中を突破していきます。
数日間2人きり。しかも敵陣。
スリルもアクションもロマンスもないはずがありません。
作者自身が、この話を『ローマの休日』+『天空の城ラピュタ』を意識して書いたと言っているとおり、お姫様のストーリーと大空のストーリーが丁寧に編まれています。
大空での飛行機同士の戦闘シーンは素晴らしいです。
スピード感もスリルもあって、状況もわかりやすく、読めば読むほどどんどん引き込まれます。
そして、恋愛シーンが、良い意味でとても爽やかでベタです。
なんといいますか、今まで僕はどちらかというとマニアックな街道を歩いてきたと思うのですが……えっと、ベタっていいですね。先の展開は読めているというのに、一緒になってドキドキしてしまいます。
それと、物語とは別に、僕がこの作品をとても気に入った点がります。
文章がとても丁寧なのです。美文とはまた違って、1語1句手を抜かず、ちょっとした情景描写でも、さまざまに工夫を凝らした後がうかがえます。
例えば、雲の描写ひとつとっても、こんな感じ。
遥か北方に、屏風のように立ち並んだ積乱雲の群れが見えた。
雲頂はいずれも一万メートルに達している。夏空に出現した純白の山脈の体だ。青空を背景にして、輪郭もくっきりと混じりけのない白を打ち出している。(p166)
おかげで、青と雲しかない空の風景を、とても立体的にそして魅力的に感じることができました。
また、作者の方は勉強も非常にされている方のようで、飛行機や宮廷に関する専門用語も雨あられのように散りばめられています。
会話のシーンなどではそれが少し話をもたつかせる印象がありますが、戦闘シーンでは専門用語が効果的に使われ、言葉では表現しにくい飛行機同士の戦いを、端的にそしてダイナミックに表現する助けとなっています。
このライトノベル、Amazonなどでもオススメ書籍になったし、コミックにもなったし、Wikipediaによると映画化もされるそうですが、それもなるほどとうなづける、素敵な物語です。
もちろん、ラノベならではの会話スタイルやキャラクター設定などに違和感を感じる方もいらっしゃると思います。僕もそうでした。最初に買ったときは60ページほど読んで恥ずかしくなり、やめてしまったんですよね……
でも、そこをちょっと乗り越えると、あとは素敵な空と恋の物語が待っています。とてもオススメですので、ぜひ手にとってみてくださいませ。