えー先日、衝動的に激しくステーキをを食べたくなって、1人で千駄ヶ谷までブ厚い肉の塊を喰らいに行ってきた話を書きましたが、そもそもこの激しい衝動がどうして生まれたかと言うと、だいぶ昔に買ったまま放置していたエクスクァイアのラテン音楽特集の、ジャズミュージシャンにして物書きにして講師で、最近ホームページのテキストもブログにアップデートした菊地成孔(超ラブ!)さんによるアルゼンチン滞在期を読んだからでして。
Esquire (エスクァイア) 日本版 2005年 01月号
この8ページ弱の特集は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに、4日間短期滞在した菊地さんの手記がメインです。本人もジャズミュージシャンだし、雑誌もラテン音楽特集なので、音楽の話がメイン……かと思いきや、僕の頭の中にはアルゼンチンの牛肉ステーキの話しか残りませんでした。
そのくらい強烈かつ、誌面のかなりの部分をさいてたんじゃないかな?
例えばこんな感じ。ラ・プラタ河沿いのウォーターフロントでステーキを食べた際の記述です。
原文にも改行が一切入っていないところが、衝動感と疾走感を生み出しています。
ラ・プラタ河沿いに延々と数百件並ぶ高級レストランは、'72年製のリンカーン・コンチネンタルのヘッドで照らせば、何と総てがステーキハウス(PARRILLA-RESTAURANT)なのである。『AQUELLOS ANOS』のディナー・タイムは、'60〜'70年代のアメリカ映画に出てくる様なラウンジ・バーの内装と、'60〜'70年代のアメリカ映画に出てくる様なイブニングドレスとヘアセットをした家族や恋人たちが、全員一律700グラムはあろうかというビフテキを目の前に1つずつ置いているという実に奇妙な光景と、ビフテキだけの10ページに及ぶメニュー(額、舌、首、背中、腕、脇、脚、尻、尾。等々、全ての部位が焼き具合と重量別にびっしり書き込まれている。最大で4キログラム。子供用300グラム以下の切り方は見つからなかった)、レタスとトマトと、ココナッツの若芽(タケノコに類似している)に、一瞬赤ワインを直接振りかけているのか?と思わせる、醸成が足りない、若すぎる赤ワイン・ビネガー(或いはワインビネガーに生の赤ワインを足していると思われる)と、綿花油に似た不思議な植物油だけが振りかけられた、異形なサラダの異様な旨さ。食前食後と必ず2瓶栓抜されるシャンパンと、数十種類に及ぶデザート。これで病的に肥満した客が1人も居ない。という念の入れようで見事に北米を脱構築していた。ビフテキが名物などではなく、食文化そのものだという事実。もちろん、その肉の味は、フィレンツェ、パリ、テキサス、ハワイ、香港、沖縄(日本の松坂牛。といった、北京ダック、そして金魚や盆栽と同じ人工飼育によるアジア的な奇形種文化は、評価の対象とならない)を経験している僕にとって、ランキングが一変する事を意味し、僕は取材チームが流石に手に負えず残した肉塊も総て頂き、都合2キロ弱のステーキを食べ終わった瞬間に「もっと喰いたい」という強い空腹感に教われた。
これを読んだ瞬間、本をたたんで飛行機に乗り込み、ブエノスアイレスに直行しかねない勢いで、猛烈に
「 ス テ ー キ が 食 べ た い 。 今 す ぐ に 」
と胸が苦しくなるほどの欲求に襲われ、肉に詳しいと巷で評判の友人である堀川さんに東京でベストな分厚いステーキ屋を聞き、そして先日千駄ヶ谷「CHACOあめみや」へ行ってきたわけです。とにかく一刻も早く肉が喰いたかったので、友だち何人かに声をかける余裕もなく、1人で単身、愚直にモグモグしてきたのです。楽しんできたというよりは、細胞の奥底に眠る、荒々しく激しい、原始時代の本能的で動物的な欲望を満たしてきたのです。海原雄山がラーメンを食べたときのような感じです。
いやー旨かったなあ。今度は友だちと、ゆっくり楽しんで行くことにします……
みなさまも、久しぶりにステーキなどいかがでしょ? しかもブ厚いやつ。
夏が本格的にはじまりそうな今、スタミナをつける意味でも良いかもしれませんよ?