2ヶ月半で読んだ289冊のうちのベスト5冊を紹介する第二弾は、「キッチン・コンフィデンシャル」(第一弾)。
ニューヨークの超有名シェフが書く、美味しい料理や素材の数々、厨房やレストランのヤバ過ぎる話、ワルで個性的過ぎるコックの面々、などについて書いたノンフィクションです。
とにかく、著者のアンソニー・ボーデインが、異常に文章が上手なのです。訳の野中邦子さんも上手。
ニューヨークのレストランなんていう魔道を歩き続けてると、人生の最高も最悪も体験するじゃないですか。そんな中で自分なりの人生哲学も持つし、それに、この業界に長くいるってことはそれだけこの業界、つまり美食や荒くれ者、ペテンと感動といったものを愛しているという事もであるし、専門職だから知識も豊富だし……
そんな彼から紡ぎだされる言葉は、まるで美食を味わっている時のように、ウットリしながら読み進めたらいつの間にか終わっちゃった、あーんもっと続けてー、みたいな気分にさせる、肩の凝らない美文でした。
知識と体験を絶妙なブレンドで混ぜ合わせ、あくまでも読者を楽しませようとするその姿勢が、大変にモテ系です。モテるんだろうなあ、この人。
少年時代に勇気を出して味わった牡蠣のグロテスクさと美味しさ。
料理人としての才能は抜群なのに人間として最低な先輩や後輩。
キッチンやレストランという戦場の運営についての分析。
料理に必要な道具や素材、調理方法についての優雅な解説。
読んでいるだけで、大変に豊かな気持ちになります。来世はシェフになりたい、今世も趣味は料理にしよう、と思いましたよ。
「カクテル」っていう小説読んだことある人いますかね? 映画だとイケメン時代のトム・クルーズ起用でかなり青春ぽくなってましたが、小説だとニューヨークの地獄めぐりみたいな泥臭い話なんです(ついでに言うと、小説は映画の5億倍くらい面白いので、オススメです)。
かなりピカレクスなのですが、まあ小説だから大げさに書いてるんだろうな、と思ってたんです。
けど、この「キッチン・コンフィデンシャル」を読んで、確信しました。「カクテル」に書かれてたことは全部ガチなんだ、料理人の世界は超ヤバくて最高なんだ、と。
読書の効用のひとつに「他の人生を疑似体験することで、より自分の内面を豊かにする」というのがありますが、この本はそれを完璧に満足させてくれます。
素敵な一冊でした。まるで素敵なディナーみたいに。