2ヶ月半で読んだ289冊のうちのベスト5冊を紹介する第3弾は、「ヒクソン・グレイシー 無敗の法則」(第1弾、第2弾)。
見るからに最強オーラがプンプン漂ってくる、グレイシー柔術の達人、ヒクソン・グレイシーが書いた、まあ自叙伝と言ってもいいと思う。
「思う」というのは、まえがきで繰り返し「これは自叙伝ではない」ということを強調しているからだ。彼に言わせるとこの本は「これまでの人生で学んできた重要なことを、できるだけ残しておきたかったから」書いたのであり、「私生活については、あまり多くを語っていない」らしい。
確かに目次を見てみても伝記的ではなく、「勝つために負けを受け入れる」「自分の人生を変えられるのは自分だけ」とノウハウ本のような項目が並んでいる。しかしそれにしても、なんでイチイチ自叙伝ではないことを強調するんだろうと不思議に思っていたのだが、読んでみてその理由がよくわかった。
あまりにもプライベートが赤裸々に描かれているのだ。
ヒクソン・グレイシーというと、高田や船木との対戦で、「400戦無敗」「最強の男」と紹介されていたのを覚えている人が多いだろう。そんな彼との夢のマッチメイクを期待していたファンや格闘家は多かったと思う。
しかし彼は、最強のまま、実力に陰りを見せないまま、表舞台に出てこなくなった。
なぜか。
そして彼は今、何をしているのか。
この本を読んで初めて知った。彼は第二の人生を歩いていたのだ。
息子を事故で失い、離婚して、財産をほぼ全て妻に譲り、故郷のブラジルに戻り、貧しさや怪我と折り合いをつけながら、自分にできることを模索し、イチから出直していたのだ。
息子の悲報以外は全然知らなかった。
どんな人の人生にも、浮き沈みの波がある。
たいていの場合、あと少しで全てを手に入れられる、まさにそのときに何かが起こり、自分の人生がしぼんでいく。そして少しずつまたは急速に、外よりも内面が重要事になっていく。
最強の男でもそれは同じだ。ヒクソンは最高額のファイトマネーを提示された直前に息子を失った。そして、その試合を受けて大金持ちになることではなく、家族と共に息子の思い出を抱きしめる時間を優先した。そして彼の言葉を借りれば、
「私の黄金時代はゆっくりと去っていき、ふと顔を上げたときには、もう消えてしまっていた。<中略>
私は気を取り直してそこから計画を立て直し、新しい自分に生まれ変わって新たな人生を歩み始めることにした。まだまだ人生は続くのだ。」
なんだろう、この本はほんとに凄い。
こんなに短い文章に、これだけたくさんの人生のエッセンスが詰まっていることって、そうたくさんはない。
彼はよく、サムライに例えられる。ヒクソン・グレイシーは現代のサムライだ、と。
しかし彼自身は、サムライの生き方には否定的だ。主君に身も心も捧げ、自分の幸せを重視していないからだ。
ヒクソンは言う。
「何でもできる時代」を生きている僕たちにとって、自分を大切にして、自分の幸せを追求すること以上に大切な事はない、と。
彼が強い精神と肉体を駆使して求め続けるのは、自分自身の幸せと満足に正直に生きることだ。そしてその豊かさを他の人々と分かち合うことだ。
他の誰かのために自分を犠牲にすることではない。
現代版サムライであるヒクソンが、背伸びもせず卑屈にもならず、等身大に接してくる本書。
名言がギッシリとつまった、名著だと思う。今何かに悩んでいる方はぜひ手に取ってみてください。