ランチタイム。食べログで口コミ数100超、評価3.54をマークする有名店にて。
僕はいつものように、料理をiPhoneでカシャッと撮影する。
と、突然、カウンター越しの厨房から、暴風雨みたいな罵詈雑言が飛んで来た。
「てめぇ! なにやってんだ! ブログに悪口でも書くつもりか! 写真なんかとってねえでさっさと食いやがれ!」
僕はいつものように、料理をiPhoneでカシャッと撮影する。
と、突然、カウンター越しの厨房から、暴風雨みたいな罵詈雑言が飛んで来た。
「てめぇ! なにやってんだ! ブログに悪口でも書くつもりか! 写真なんかとってねえでさっさと食いやがれ!」
びっくりしてパスタ(4種のキノコのスパゲティ)の中にiPhoneを落としそうになった。
厨房を見ると、頭を剃り上げた髭面の、つまり強面の料理人が、憤怒の形相でこちらを見ている。
いったい何事?
確かに気持ちはわかるけど、今は2014年だよ? ここは食べログ3.6だよ? いきなりゴツいデジイチを取り出したならともかく、スマホで写真撮られるなんて、すっかり日常の光景なはずじゃ?
気難しい人なのかな。あるいは今日は、虫の居所が悪かったのかな。
どうしよう。別にどこに投稿するつもりもないんだけど……
僕は、ゴクンと唾を飲み込んで、相手の目をじっと見ながら、ゆっくりとしゃべった。
「えっと……私が急に死ぬとしますよね? そうしたら、娘や息子たちが、『パパの行った店ってどんなところなんだろう』と興味を持つかもしれません……だからいつも、入口と料理の写真を撮ることにしておりまして……」
料理人の表情が、奇妙な形に歪んだ。
怒りが霧散して行く感じ。でもプライドが邪魔して許すことができない感じ。哀しく微笑ましいと感じると共に、じゃあ何か?俺が怒ったのが悪かったってことか?という自問自答している感じ。
少しして、料理人は言った。
「わーったよ……だけどな、写真撮るときは、事前に断るのがマナーってもんだぜ、兄ちゃん」
そして彼は料理に戻った。
「……ったくよ。撮られる身にもなってみやがれ。緊張するっつーの……」
と、呟きながら。
そうか。これはあなたの作品でしたね。急ぎながらも、ひとつひとつを大切に心を込めて作ってるんですものね。
僕は、繊細に盛り付けられた料理と、無骨な料理人を交互に見やって、思わず微笑んだ。