プリンスに最初に興味をもったのは、背が低いからだったことは認めざるを得ません。
まだ成長期を迎えていなかった学生時代の前半、いつもクラスで前から二番目か三番目くらいだった僕にとって、プリンスは「背が低くてもいいよね!?」と自分を肯定するためのアイドルでした。
もう少し大人になって、音楽をちゃんと聞くようになってから、はじめてプリンスの「曲の凄さ」に気づきました。
いや……曲というよりも、「音」?
プリンスの曲は、好き嫌いを超えて全作名曲でした。
その秘密は「音」にあると思います。音の一つ一つを丁寧に扱い、そのためには自ら全楽器を手にとって納得いくまで弾き録音する、そんな風に地道に作られた精緻極まる楽曲は、ド派手で格好いい曲も、最初は「地味だな」という印象を持つ曲も、聴けば聴くほど、まるで滋養のように身体全体に柔らかく温かく染み渡りました。
プリンスの曲は、まるであたりめみたいでした。噛めば噛むほど味が出る。ちなみにあたりめも大好きです。昨夜も噛んでました。
プリンスは、数少ない、「アルバムが出たら必ず買う」アーティストでした。
ハズレがあり得ないからです。プリンスの場合、「曲がいい」「曲が悪い」以前に、音そのものが快楽に直結していました。BOSE on earなどの良いヘッドフォンで聴くと、それを思う存分堪能することができました。
僕が学生時代DJするときは、ほぼ毎回『KISS』をかけて、お客さんを驚かせていました。
たとえそれがハウスの日であろうがヒップホップの日であろうがフリーソウル(死語すぎて白目。ジャンルに捕らわれないいい曲のこと)の日だろうが、です。
あれから考えると、もうずいぶんと長い付き合いです。プリンスは僕にとって、他のアーティストの他の曲が、「好きか嫌いか」とは別軸で、「質が高いか低いか」を判断するための原器みたいになっていました。
彼がアルバムを出さない方針をとったあと、彼の新作に触れることが極端に減っていき、かなり彼の曲、のみならず、音楽そのものに飢えました。
プリンスは、ネットに出回る数々の情報や評判を参考にする以外に探す、ほぼ唯一のワールドクラス・メジャーアーティトでした。だから「新作が出たらしい。でも雑誌の付録だから聴けないよ」みたいなときは、困りに困りました。
近年、またアルバムを出すようになって、心の底からホッとしたものです。
訃報に接し、心からお悔やみ申し上げます。本当に。
僕はこれからも、プリンスの曲を聴き続けるでしょう。時間のあるときは、一音一音、その響きを確認するように。
そういう聴き方に耐えうる曲ばかりだし、たぶんですが、プリンスもそういう聞き方(も)望んでいるんじゃないかなと思うので。
一番好きなのは、実は「3121」です。