話題のディズニー映画『ズートピア』を鑑賞させていただきました。
この映画でいちばん驚いたのは、「こりゃ、大人向けアニメだ」ということです。
もちろん、この映画の主人公は動物たちで、子どもも最高に楽しめます。ネズミだけでエルサと同じ髪の量(40万本)があるそうです。それほど精密に描かれたキャラクターが、画面いっぱいに、表情豊かにピョンピョン飛びまわます。まさにディズニー映画みたいだし、まるでジャッキー・チェンのアクション映画みたい。一秒一秒全て、観ていて飽きません。
しかし、鑑賞後に僕の心に残ったのは、「あー楽しかった」より、もっと複雑なものでした。
それは、ひとことでいうと、「ダイバーシティ(多様性)」についての洞察です。
いま、世界で最も重要とされている概念のひとつ、ダイバーシティ。
ズートピアを見ると、ダイバーシティに関する理解と共感が、一気にレベルアップするのです。
ネタバレしないように、少し説明しますね。
映画の主人公は動物たちです。全ての動物は、そのサイズや特徴をできるだけ保持したまま、描かれています。
キリンは背が高く、ネズミは小さい。サイやライオンは筋骨隆々で強そうで、ヒツジはもこもこして弱そう。狼はクールで攻撃力が高そうだし、熊はドープで攻撃力が高そう。
結果、どうなるか?
大きさが何十倍も違う生き物が、同じ街に住むことになるのです。
そんな街では、例えば、いったいドアにどんな工夫をすればいいのでしょう?
道はどうなっているべきなのでしょう?
テーブルひとつとっても、ダイバーシティを意識した設計にするのは大変です。
『ズートピア』では、あらゆる細部に、この問題への配慮がなされています。
例えばジューススタンド。ジュースをネズミに渡すときと、キリンに渡すときとでは、違った仕組みが必要です。
また、飛び移る木々が必須な動物もいるし、駆け巡る大地が必要な動物もいます。いろんな気候や地形が、それこそ電車の中にまで、必要でしょう。
ズートピアは、全ての動物が、それぞれ自分の(まさに)身の丈にあった生活ができるよう、配慮されているのです。
とはいえ、彼らも基本は動物。
特に肉食動物と草食動物が共存するとき、あるいはサイズ比のありすぎる動物が共存するとき、そこにはやはり、互いへの不満や不信感、恐怖やいじけ、敵/味方、そういった本能的な感情が、完全に消えているわけではありません。
ここで、ダイバーシティの難しさがあちこちに露呈するのです。
小さな草食動物を大きな肉食動物が見たとき、本能的な、あるいは経験や教育からくる怯えや優越感が、どうしても出てきてしまいます。
しかし文明人として、それを表立って表すのは適切ではありません。
でも心の中から、その気持が消えるわけではありません。
だからいろいろ理由をつけて、相手を……どうにかするか、あるいは愛と信頼で相手と共存するか。
共存するとしたら、どのように共存するのか。
僕は、『ズートピア』の本当のメッセージは、ダイバーシティだと思いました
日本に住んでるとなかなか感じないですが、今、世界は、ますますダイバーシティを受け入れなければならない時代に来ています。
異なる民族、異なる宗教、異なる価値観、異なる教育、異なるサイズ、異なる色、異なる性別、異なる豊かさ。
互いが互いを認めて、ギスギスせずに、受け入れる。少しくらい「違う」と思っても笑顔で受け入れ、どうしても譲れないところはキチンと話し合って妥協点を探る。
そういうスタンスを疑似体験するのに、『ズートピア』は最高の教材ではないかと思う次第です。子どもも、そして大人も。
楽しめながら学べますしね。