大阪のTOHOシネマズなんばで『シン・ゴジラ』を観たのですが、僕の隣に、先輩後輩な関係の2人組がいたんですよね。
この2人が、芸人か!? というくらいトークが面白くて。
話のトーンや間が絶妙なのでテキストでの再現は困難なのですが、まず設定(じゃないし)はこんな感じ。
先輩:米国に何年も住んでいて、先月帰国したばかり
後輩:サラリーマン
先に先輩が着いていて、カジュアルな格好で、だらしなく椅子に座り、塩とキャラメルのハーフ&ハーフのデカいポップコーンを頬張っています。
そこに後輩登場。
開口一番、
「先輩、エグいくらい馴染んでますよ。常連ですか?」
で、周囲の笑いを誘います。先輩も負けじと、トイレに行って帰ってくるなり、
「今周り見回したら、なんと、スーツはお前だけやで」
と返し、その後も、
「先輩、言いたいこと言っていいですか……ポップコーン、全部塩でも良かったんちゃいますか?」
「日本帰ってきてからな、◯◯っていう海外ドラマ、3シーズン分を、3日で見たってん」
「1日1シーズンじゃないですか……!」
と、言うことがいちいち軽妙で、隣にいる僕としては可笑しくて可笑しくて。
だから、鑑賞後に彼らが何を言うかにも、期待していたんですよね。
しかし。
映画終了後は、あまりの衝撃に、口もきけない様子でした。
シン・ゴジラ風に言うと、
「目標、活動を停止。完全に沈黙しました」
---
でもね、しょうがないですよ。あれは言葉を失ってもしょうがない。
最高。最高すぎました。
正直、最初は期待していなかったんですよね。「おいおいエヴァどうすんだよ」くらいにしか思っていなくて。
でも、7月末に予告編を観たら、一気にボルテージが上がってしまいまして。
で、2周間を経て仕事が一段落して、ようやく観賞できたのですが、僕の期待は最高潮だっというのに、それを遥かに上回る良さで、いや、もうホント、参りました。言葉になりません。
言葉にならないのですが、しかし、今現状の気持ちをとりあえず書き残したく、こうしてキーボードを叩いている次第です。
映画鑑賞の面白さを損なうようなネタバレは注意深く避けていますが、シーン単位では少し触れています。
長いです。すみません。けどこれでも初稿の半分まで削りました。
それでは行きます。ドドドーッ!
---
シン・ゴジラは、庵野さん的格好良さに満ち満ちていました。「風の谷のナウシカの巨神兵のシーン」から「エヴァンゲリオン」に至るまでの、あの感じ。
高速なカット割り、溜め、セリフ早回し、軍事的政治的専門用語の多用、効果音やサウンドトラックの使い方の上手さ、独特のカメラワークや画面構成、兵器。肉々しさ、別作品のオマージュ。
あれが最初の一秒から最後の一秒まで、ミッチリと詰まっていました。
まずとにかくゴジラの造形。あんな禍々しい、災厄そのものみたいなゴジラは、見たことありません。
蒲田版、品川版、最終版。どれも目に焼きつく強烈なインパクトでした。
ただ……こんな感想を抱いているのは、もしかしたら僕だけかもしれませんが……
品川版で大口を開けて叫ぶとき、頬の肉が邪魔して、口を開けきれなかったじゃないですか。
あの肉のところが、妙に美味しそうじゃありませんでした?
赤身で、一見スジっぽいけど、実は弾力があって気持よく噛みきれそうでもある。
焼き肉で言うとタン。獣臭も少なくてむしろ蛋白な味。
映画を観たあと肉を食べたからかもしれませんが、「あの部分、食べたらどんな味なの……」という妄想が、頭から離れません。
あと、蒲田版のヒレの辺りも、あまりにもキモすぎて、むしろガジュッとひと噛みしたい気がします。今まで経験したことのない肉汁が溢れ出るんだろうなあ……
止めましょう。
そんなことより、ゴジラの代名詞ともいえる、口から吐く放射熱線。
シン・ゴジラのそれは、お、そろそろ出るか? 出るか? からはじまって、
ヒレが!? 口が!? おおおお、
おおおおおおおおおお!!!!!!
ドドドドドドドドドドドド!!!!
マジでマジでマジでマジで!?!?
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!
え!? もっと!? もっっと!?
うわあああああああぁぁ!!!!!
すっげえええええ!!!!!!!!
え!? まだ!? まだあんの!?
ギャアアアアアアアア!!!!!!
なにこれえええぇぇぇぇ!!!!!
らめええええええぇぇぇぇ!!!!
で、もうね、たまらない格好良さと、胸に迫る悲惨さがグチャグチャに交じり合った、想像を絶するシーンでした。今年消費するコンテンツはこれで充分かもしれません。
あの放射熱線には、庵野さんの天才の全てと、庵野さんが幼少時から恋い焦がれ続けてきた特撮やアニメへの情熱の全てがブチ込まれていて、だからあんな激アツなんだと思います。
対する人間側も最高でした。
登場人物は全員、政治家か役人。最初は彼らの想定外の事態に対する無能さが、無駄な会議や権力争い、お役所風なマニュアル的態度といった形で滑稽に描かれますが、段々とそれらの奥に隠された真の力がうごめきだす。
いくら首を失っても次から次へと生えてくる。水と油みたいな関係が政治という力学でくっつく。鈍いようで実は思慮遠望に満ちている。ビバ・ジャパニーズスタイル!
この映画は、
「ゴジラという怪獣 vs 政治という怪物」
の戦いと見ることもできます。あまりにも何もかもが違いすぎるので、むしろ互いに好敵手になる、みたいな。
徹底的にこだわって練られたセリフの専門用語や大道具小道具も、リアリティたっぷりでした。
それに、なんといっても無人在来線爆弾。「在来線」という単語に、これだけの可能性が秘められていたなんて驚きです。語感が良すぎます。
映画未見の方のために詳しくは述べませんが、昇り龍のような無人在来線の姿は、「人類、がんばれ!」という感じで、胸熱でした。あれに毎日乗って通勤してる僕って……!
あと、個人的には、放射線問題から逃げていないところも、良かったです。
街の破壊と放射線はゴジラを撮るときには必須の要素ですが、3.11を経験した日本にとっては、触れるにはあまりにセンシティブな問題でもあります。
しかしシン・ゴジラは、災害や放射線に対して、誤魔化さず、良い子ぶりもせず、真正面からガチで取り組んでいました。
そうそう、エンドロールまで良かったです。
この映画には、驚くほど多くの会社や政府役所関係が協力しています。ああ、彼ら一人ひとりが、自分の持ち場で頑張って、それでこの作品ができたのだなあ、ということが、映画の内容と相似形を成していて、思わず延々とスクロールを追ってしまいました。
---
シン・ゴジラは、とてもエヴァ的です。まるでパロディかというくらい似ている部分すらあります。
僕の妄想では、これには「ファンサービス」とか「庵野さんはこれしかできない」ではなく、別の理由があると考えています。
庵野さんは、「シン・ゴジラを作ったから、ようやくエヴァを作ることができる」というようなことを記者会見で語りました(参考)。もしかするとこの言葉は、以下のような意味なのではないか、と。
「エヴァのために考えたあれこれを、全部シン・ゴジラに突っ込んだ。これでようやく、まっさらにリフレッシュした状態でエヴァと向かい合うことができる」
このたび、庵野さん的格好良さを最大限生かして、見事生まれ変わったシン・ゴジラ。
しかし、もし今回使われた数々のアイディアをエヴァンゲリオンでやっていたら「エヴァとしては普通」だったかもしれません。
ゴジラにとっても、庵野さん=エヴァにとっても、(ゴジラ並に非現実的なビジュアルの)カヨコ・アン・パタースン役の石原さとみ言うところの「Win-Winな関係」だったんじゃないかと、そんな可能性を考えたりします。
だから、シン・ゴジラに対する感動が、そのままエヴァ次作への期待につながっている自分がいます。
何より庵野監督にとって「エヴァ以外の代表作ができた」ことは、とても精神衛生上良いと思います。ますますエヴァに期待できる……!!
庵野総監督と樋口監督、関わったみなさまには、感謝の言葉しかありません。お疲れさまでした、そして、ありがとうございました。
(この勢いで『光の巨人(ウルトラマン)』もいかがでしょうか?)
それと、願わくばこのシン・ゴジラが、世界中に広く配信されますように。日本人以外には分かりにくい? いや、下手にグローバルを意識した作品より、このくらいドメスティックな方が、むしろ海外でウケると思いますけどね。どうなんでしょうね……
さて、今から正座してパンフでも読もうかな(残り3冊だった)。
p.s. いくらシン・ゴジラがエヴァっぽかったとしても、鑑賞後に「シン・ゴジラが完全にエヴァだった件」とか言っちゃダメですよ。帰りのエレベーターの中でそうつぶやいた彼氏が、彼女に「そんなネットみたいな言い方、現実でせんといて!」と叱られていましたよ。