先日、巷で話題沸騰、ほぼ見なければならない状態にあるアニメ映画、『この世界の片隅に』を観ました。
ところで、この文章は、ランチタイムに、スマホで書いています。そのくらいの制限がないと、この映画の感想は書けない。時間をとってキーボードを前になんかしたら、いくら書いても終わらないし、一方で、どこから書き始めて良いかわからなくなりそうです。
さて、感想ですが……
たいへんな映画でした。
いろんな言葉が湧いてきて止まりません。みんなが「ぜひ観て。素晴らしいから」というのもわかります。
ただし、その、「ぜひ観て。素晴らしいから」という言葉は、「楽しくて我を忘れて素晴らしいから観て」という意味じゃありません。「戦争の悲惨さがよくわかるから、教育的な意味で観て」でもないし、「感動する。泣いて泣いてたまらないから観て」でもない。
僕も、素晴らしさのあまり、鑑賞中何度も震えました。泣いたり笑ったり、気持ちが暖かくなったり胸が締め付けられるようになったり。
ぜひ、みなさんにも観てほしいと思います。そして、この言葉をもう少し細かくに言い直すと、
「まだ、こんなにいろんな感情が湧いてきてワチャクチャになるのを経験してない人がいるなんてズルい。ぜひ観て欲しい。そして心がワチャクチャになって欲しい」
という、意地悪とも言えなくもない感じになります。
(特に僕には今、小さい子どもがいるので、感情の持って行かれ方は強烈でした。本当に最初の最初から最後の最後まで、幸せ・生命・郷愁・救い・犠牲、もろもろの象徴として子どもが出てくるので、いや、これは困りましたね)。
ただ、ひとつ強調したいことがあります。
『この世界の片隅に』は、戦前戦中戦後の悲惨さや辛さを押し出したり、あるいは、そんな中で懸命に生きる人々の強さやしたたかさを表現している映画ではありません。
むしろ、舞台を敢えてその時代・その場所に持ってきているにもかかわらず、現実にはいろいろ起きているにもかかわらず、一日一日の小さな幸せや喜びに丁寧にフォーカスを当て、それらをほっこりと描いている映画です。
畑の菜っ葉や、思いやりのある一言、天井の模様、夏の音、空と雲と海、笑い声などなどが、常に世界を和らげてくれています。
かつて、この世界の片隅で起きたこと。
それを忘れないために、そして、忘れないためにわざわざ辛すぎるものを観たり読んだり聴いたりせずに済むように、この映画は生まれたのかなと、個人的には思います。『火垂るの墓』の代替となりうるものが、やっと出てきたな、的な。
素晴らしい映画でした。ぜひみなさんも観てみてください。
今年は洋画も邦画も、映画が当たり年すぎてすごいことになっていますが、僕の中では、この映画はランキングの外にある、特別賞、特別栄誉賞みたいな映画になるでしょう。