僕は村上春樹や町田康や菊地秀行好きを別に言いづらくないので普通にカミングアウトします。
疲れた顔をした痩せたヤマト店員が「お届けものにあがりました……」と言いながら村上春樹の『騎士団長殺し』を持ってきてくれたのはもう何日も前。
僕は思わず「す、すみません……」と恐縮してしまいました。ヤマトさん、ほんと、ちゃんと休んで英気を養ってください。クロネコメンバーズに入会して再配達リスクをできるだけ減らすよう調整しますから。
ところが、命がけでヤマトさんがお届けしてくれたにも関わらず、僕は忙しさにかまけて、箱を開けることすらせず。なんという怠惰。なんという傲慢。貴族か? 重ね重ね恐縮が止まらない……
忙しいのがようやく一段落したので、とうとう今夜から読みます。今からワクワクが止まりません。
いったいどんな話なんだろう?
まずタイトルがかなり変わってますよね。今までの村上春樹の長編と言えば、たとえば、
● 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド → RPGっぽい
● ノルウェイの森 → お洒落
● ダンス・ダンス・ダンス → 80年代っぽい
● ねじまき鳥クロニクル → 長そう
● 海辺のカフカ → 歌詞っぽい
● 1Q84 → ミステリーっぽい
などで、それらと比べると『騎士団長殺し』は圧倒的に動詞の激しさがすごい。
アクション満載なのかな。忠臣蔵やペロポネソス戦争といった集団での乱戦バトルを連想します。
あるいは異名の可能性もあります。ベルセルクにそんな二つ名を持つキャラ出てきたような気もするし、もしかすると(これまた観てないけど)ゲーム・オブ・スローンズにも出てきたかもしれない。
一方、日本に住む僕らは、「騎士団長殺し」と聞くと、当然「三年殺し」も連想せざるを得ません。こうなってくるともう話の筋をまったく想像できない。騎士団長を殺すくらいの菊の御紋突きっていったいどんな破壊力なのだろう、「キェェェェッッ!」って怪鳥のような叫び声を上げて刺してくるんだろうな、と、思わず肛門がキュッと縮まってしまいます。
あるいは、(僕のような)一部属性の人間からすると、伝説の武器かな? 大型の剣みたいな? 地上にへばりつく人々の怨念とかキリストの血とか超新星とか水素金属とかを錬成した? という中二病的な妄想も掻き立てられます。
村上春樹の小説は総じてちょっとラノベ臭がするので、可能性はなきにしもありません。
少なくとも「綿密な時代考証を行った歴史小説ではない」のだけはわかります。村上春樹なので。
あと、そもそもファンタジーなんですかね?
「騎士団長」というくらいだからファンタジーっぽいですが、カズオ・イシグロがファンタジー出した後で村上春樹がファンタジー出すっていうのは、恥ずかしいほどわかりやすいズッ友アピールな気がするので、この線はないんじゃないかと思っています。
うーんなんて興味深いタイトル……と思いながらもう一度表紙を見てみると、なんと、サブタイトルもついてますね。
「顕れるイデア編」と「遷ろうメタファー編」。
全然わかりません。AIが作った文章みたいです。
言の葉の庭で存分に言葉遊びを楽しんでいる様子を感じられます。御年68歳にしてこの遊び心。このお洒落感。そして、隠しきれない知的感。計算かな? ジョークかな? それとも本文読めば納得するのかしら?
いずれにしろ、村上春樹だからこそ許されるサブタイトルだと思います。ポッと出の作家がこの名前を出したら、編集者が脊髄反射で却下しそう。
イデアもメタファーも実態がないものだから、「『騎士団長、ほんと腹立つわー。昨日もオレだけシチューの具が少なかったし。考えれば考えるほどムカついてくるから、殺したろ。どんな方法で殺すのが理想かしら』と妄想を膨らませる日々を送り続けた結果、もうすっかり殺した気になってスッキリ」という、脳内だけで完結する四畳半小説の可能性も……ないな。町田康ならありえるかもしれないけど。
いずれにしろ、読むのが楽しみです。全ての積ん読を脇において、僕のインタビューも載っている書籍『ユーザーと「両想い」になるための愛されるWebコンテンツの作り方 ~実践的コンテンツマーケティング集中講座~』を読むのも中断して、騎士団長殺しにとりかかろうと思います。
※ 「女のいない男たち」はちゃんと読んでレビューしました。良かったらどうぞ