昨今、ダンスのレベルは全体的にますます急上昇していますが、その中でも、やはりひときわ群を抜いて上手い人々がいます。
そのうちのひとり、Fik-Shunが、自分の踊りをさらに別次元にレベルアップさせていました。
Fik-Shunは若い(今22歳くらい?)ながら世界のトップダンサーです。
基本的にはポッピングやアニメーションにかなり寄ったヒップホップ/ダブステップ。トリッキーな動きの多様さと、関節の可動域の広さ、ボディバランスの凄まじさが特徴。
テイラー・スウィフトの『Shake it off』で宇宙人みたいな格好で踊っていた、あの人です。以下に、普段のFik-Shunのダンスを貼っておきますね。
しかし、WODで見せた彼のダンスは、使っている技術こそ変わりませんが、全く違う世界を生み出していました。
とてもエモーショナルなんです。感情表現が豊か。
どういう意味か?
自分の中にも多くの異論を抱えつつ、「だと思う」「な気がする」を多用すると読みにくくなるので、以下、あえて断定口調で自分の考えを書き出しますと……
僕はよく、最近のダンスの傾向(のひとつ)として、
「ヒップホップの技術でジャズダンスを踊る」
という言い方をします。
ジャズダンスは、バレエやモダンダンスの動きをベースにして、「感情を豊かに表現する」ダンスです。どんな動きも取り入れますが、基礎はあくまでもバレエ/モダンダンスだし、振り付けもその上にのっとって構築されます。
ジャズダンスの目的は、喜怒哀楽とか、自由さ軽やかさとか、楽しさ苦しさとか、愛や怒りなどを、身体で表現にすること。
一方、ヒップホップをはじめとするストリートダンス系は、「リズムの遊び」です。
ストリートダンスは、バレエやモダンダンスの動きを基礎とせず、土台から、自分たち独自の動きを開発してきました。
ストリートダンスの目的は、バトルで勝ったり、自分独自のリズムの取り方で遊んだり、ヤバい動きでびっくりさせたりすること。
しかし、最近、今までとは全く違うレベルでの融合が起きているように見えます。
ストリートダンスの動きで、感情を豊かに表現するのです。つまり「ヒップホップの技術でジャズダンスを踊る」。
今までもずっと挑戦されてきたことではありますが、最近、それに高いレベルで成功しているケースを見かけることが増えてきました。
たとえば、s**t kingzは、「ヒップホップの技術でジャズダンスを踊る」を追求しているところが新しくて世界的に評価されたポイントだと思うし、個人的には、King of SWAGのDeeが最近公開した動画もすごくレベル高いと思います。
(ちょっと横道 : KRUMPについて。あれは感情や衝動を爆発させるという「スタイル」の発明で、ジャズダンスみたいに振り付けで特定の感情を表現しているのではないので、ちょっと脇においておきます。ただTight Eyezの最近の動画はかなり感情表現が豊かでした。
あと、マイケル・ジャクソンについて。邪推ですが、マイケルが逝去し、彼のオリジナルかつ感情表現豊かなダンスが再び脚光を浴びるようになってから、「ヒップホップの技術でジャズダンスを踊る」の動きが加速したようにも感じています。)
閑話休題。
で、今回のFik-Shun。
使っている技術は紛れもなくヒップホップ/ダブステップ/ポッピング/アニメーションのそれであり、ジャズダンス的な要素は一切ないにも関わらず、とても激しく豊かに人間らしい感情表現がされていて、驚きました。
思わず連続して10回くらい観た。何ギガ減ったかわかりません。
感動しました。
ストリートダンスでここまで演劇的表現ができるなんて! なんというか、Fik-Shunだけではなく、ストリートダンスのコミュニティ全体が一気に底上げされたかのような凄みすら感じました。
すごいです。ほとんどバレエ/モダン/ジャズダンス由来の動きもないんですよ。3箇所くらい、それぞれ、ほんの一瞬しかない。感情表現をするときはつい使いがちなのに。
新時代が来た! と思いました。
なぜ、こんなダンスが踊れたのか?
あるいは、こんなダンスを踊ったのか?
Fik-Shunは、ジェニファー・ロペスからの質問に対して、こう答えます。
「僕は小さい頃から、両親がそばにいなかった。父も母も何千キロも遠くにいた。
わかるだろ? 子どもにとって、それがどんなに辛いことか。
そして、仲違いしている父と母を仲直りさせようと奮闘することが、どんなに大変なことか」
話は途中で終わります。Fik-Shunが、涙がこみあげてきて話せなくなったからです。
Fik-Shunが使った曲は、X Ambassadorsの『Unsteady』。不仲の両親を前にうろたえる子どもの気持ちを歌った曲です。
彼は、歌詞に自分の境遇を重ね合わせ、表現したのでしょう。自分の持っているダンスの技術で。
その結果、いろんなダンスの間をフラフラとさまよっている僕のような人間からすると、まるで夢のような素晴らしい芸術表現が生まれました。
もうね、ほんと神ダンスだと思います。神ダンスっていうのはこういうことのことを言うのか、と。
いや、神じゃないか。あまりにも人間らしい、生のむき出しな感情を、振り付けで表現しているんですものね。
僕も早く膝を直してダンス再開したいなあ。もちろんFik-Shunみたいには踊れないし、膝はけっこう長引きそうなんだけど……