昔々、あるところに、お爺さんと、お婆さんが、住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが洗濯をしていると、川上から、大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと、流れてきました。
「おや、これは良いお土産になるわぁ」
お婆さんはその桃を、家に持って帰りました。
その夜。
お爺さんとお婆さんが桃を切ってみると、なんと、中から赤ちゃんが出てきたではありませんか!
赤ちゃんは、桃から産まれたので、「桃太郎」と名づけられました。
桃太郎はスクスクと育ち、あっという間に、強く立派な男の子になりました。
ある日、桃太郎が言いました。
「お爺さん、お婆さん、おら、鬼ヶ島に行って、鬼を成敗してくるだ」
お爺さんとお婆さんは、桃太郎に鎧と刀、桃の描かれた旗、そしてきび団子を持たせ、桃太郎を送り出しました。
桃太郎は、途中で、最初はイヌ、次にサル、最後にキジに出会いました。
「桃太郎さん、腰につけたきび団子、ひとつ私にくださいな」
「鬼の征伐についてくるなら、あげましょう」
イヌとサルとキジは、きび団子をもらって、桃太郎の家来になりました。
桃太郎は、家来とともに、鬼ヶ島へと進みました。
鬼たちは、酒盛りの真っ最中でした。
桃太郎たちは一気に攻めました。
イヌは噛み、サルはひっかり、キジはつつき、桃太郎は刀を振りまわします。
攻めて攻めて攻めやぶり、面白い面白いと残らず鬼を攻め伏せました。
とうとう鬼の親分が、
「参った参った。降参だぁ」
と、手をついて謝りました。
桃太郎は、荷車に宝物を積んで、お爺さん、お婆さんの元に帰りました。
お爺さんお婆さんは、大喜びしました。
「桃太郎や、ありがとう、ありがとう」
桃太郎はお爺さんとお婆さんに笑いかけました。そして、言いました。
「これらの宝物やご馳走は、鬼たちが近くの村から盗んできたものです。お爺さんお婆さん、ご足労をおかけしますが、これらの宝物を、村々に返してきてあげてくれませんか?」
「村へ? そりゃぁ構わんが、桃太郎が自分で行くほうがいいんじゃないかえ? みんなからそりゃあ喜ばれるぞ?」
桃太郎は、フッと寂しそうに笑い、小さく首を振りました。
「僕にはやることがあります。また旅に出ないと」
「旅?」
「お爺さんお婆さん、ついてきてください」
みんなは、川まで来ました。
「ここは……?」
「ここは、お婆さんが桃を、つまり僕を拾ってくれたところです」
そう言いながら、桃太郎は、鎧と着物を脱ぎはじめました。
お爺さんお婆さんは驚きました。桃太郎の身体が、桃色に光り輝いているのです!
汗が夕日に照らされているのではありません。その光は、桃太郎の内側から放たれていました。
なんという奇跡でしょう!
これから何が起きるのでしょう?
桃太郎は、何をしようとしているのでしょう?
「お爺さん、お婆さん」
桃色の光はどんどん強くなっていきます。
「僕を育ててくれてありがとう。本当に楽しい日々でした。花や草木や虫と遊んだこと、美味しいおかゆ、身体を優しく拭いてくれたこと、ぜんぶ、忘れません」
お爺さんお婆さんは、まぶしさに目を覆いながら、何かを察しました。
「桃太郎や、もしかした、どこかに行ってしまうのかえ!?」
桃太郎は、一瞬だけ間を置き、それから、なにかを決心したかのようなハッキリした声で、はい、と返事をしました。
「はい。私の本当の正体は、鬼を退治するために桃源郷より遣わされた『桃の戦士』。人間界を征服しようと企む鬼の野望を砕くため、諸国を旅している者です。
私は、自らを桃に偽装し、各地を移動します。お婆さんのような方に拾われたのは、これで16度目」
「16度目!」
「この地域を根城とする鬼は退治しました。私は自らの使命を果たすため、また、旅に出ます」
桃太郎がいなくなる! お爺さんお婆さんの目から、涙がこぼれました。
「桃太郎! 行かないでおくれ! せっかく、せっかくこれから鬼に怯えず、仲良く楽しく3人で過ごそうとしていたのに!」
「ありがとう」桃太郎が泣きながら笑った、気がしました。気がした、というのは、桃色の光はますます強くなっていて、今や、まともに見ることができなかったからです。
「お爺さん、お婆さん、本当にありがとう。そして……いつまでもお元気で!」
光の玉が、宙に浮きます。
まるで小さな太陽のようです。
光の玉の中で、桃太郎が、叫びました。
「ピーチ・トランスフォーム!」
光の玉がキィィィッッッーーーン!と音を立てはじめます。そして、もう眩しさの限界か!というところに至る直前、急に輝きが消え失せました。
お爺さんお婆さんが恐る恐る目を開けてみると、もう、そこには何の光もありませんでした。
ときは夕暮れ。日が沈みかけています。
「……桃太郎、桃太郎や! どこじゃ! どこにおるんじゃ!」
そう叫ぶお婆さんの方に、お爺さんが手をかけます。
「婆さんや……あそこをごらん」
お婆さんが川に目を向けると、大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと、川下へと流れていきます。
桃太郎は、桃へと戻ったのでした。
めでたし、めでたし。
<完>
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岡崎体育さんの「MOMOTAROの歌」を見ていて、そういえばこれを書こうと思っていたのを思い出しました。
なお、MV中の歌詞は、全て本当のもので、岡崎さんの創作ではありません。この童謡が作られた当時は、今では考えられないほど、暴力に寛容だったのですね。