現実の世界では、起きた出来事に対して感情が生まれるが、夢の世界では、感情があって、その感情を象徴する何かが目の前に現れる。だから、夢で起きたことには意味はないが、夢で味わった感情には、真に迫った手触りがある。
今日は「引きこもりの僕が、久しぶりに学校(小学校)に行った」という夢を見た。
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すごくドキドキした。教室の位置に自信が持てず、何度もあちこちの部屋を見て回った。
たぶんここかな? という教室に入っても、今度は、自分の席がわからなかった。
誰かに聞けばいいのか? 誰に聞けばいいのか? 聞いたらおかしいことなのか? 答えのない小さな悩みが、頭の中でグルグルした。
ふと、近くを通ったジャイアンと目が合った。
そのとき、僕は思った。自分はずっと引きこもっていて、久しぶりに学校に来たんだ。変で異常で当たり前だ。相手がこちらのことをどう感じたか、どう思ってるかとか、一切考えるのをよそう。そういう感情が僕に入り込もうとしたら、全部表面ではじきかえそう。何も考えてないアッパラパーになろう。
そして、ジャイアンを普通に見て、普通に、
「久しぶり」
と言った。
ジャイアンの顔にパッと笑顔が広がり、「よぉ、久しびり」という返事が帰ってきた。
「僕の席、どこかわかる?」
「そこだぜ」
「サンキュー。久しぶりに来たからさ、わからなくて」
「ハハッ」
頭の中の、ウジウジと考えてしまいそうな部分を全く使わないように注意しながら、極めて表面的に、この普通のやりとりをこなした。
自分の席に座った。「やった。やれたじゃん」という、小さな達成感が湧いてきた。
遠くの席で、同じ塾に通っているドラゴンというあだ名の子が、先生と、vTuberについては話していた。
話題になっているvTuberは、どうも、視聴者とは、お約束の話し方しか受け付けないらしい。
僕は、大きすぎず小さすぎない、普通の声の音量で、その会話に加わった。
「うわー、めんどうくさいね、それ!」
ドラゴンも先生も笑った。
一番前に座っている女の子が、人づてに、告白してきた。
こういうのはもちろん、考えすぎると何もできない。僕は全く頭の中で考えることなく、勇気を出して、席を立ち、その子の前に立った。
どうするかは考えていなったが、「えっと……」の後で、思い切って「ありがとう。よろしくお願いします」と言った。
これで、2人の友だちと話し、1人の彼女ができたことになる。
その後も、周囲で起きる状況を、できるだけ自分の中に取り込まず、表面で弾き返すような意識を保ったまま、その日1日を過ごした。
ドッヂボールでは、どんなに当たっても、積極的にボールを取りに行こうとした。
何も起きないときは、周りで誰が誰と集まって遊んでいるかなど気にせずに、普通に席に座ってチルってた。
誘われれば、談笑した。
1日が終わった。
「相手がこちらをどう思っているか気にしない」「外界での出来事は、全部表面的な反応で弾き返す」は、120%の出来栄えだった。
ドッと疲れた。
今までなりやれないことを、ずっとやっていたのだから、仕方ない。
しばらくは疲れるかな。でも、3日経てば、周囲もみんな僕に慣れて、腫れ物に触るような態度をとらなくなるだろうし、1週間立場、僕も慣れるだろう。
慣れの問題だ。時間が解決する。しばしこの調子で行こう。
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そんな辺りで目が覚めた。
実際には、僕は引きこもりだったことがない(学校は嫌いだったけど)。何もかもが適当な嘘だったけど、ドキドキ感とかホッとした感とかドッと疲れた感とかは、確かに自分の感情だった。