この本には、素敵なことがたくさん書かれています。名言も多いし、筆者の経歴のユニークさが主張の説得力を高めるのに貢献している。
ただ。
ひとつ問題がありまして。
どうやらこの本は、基本的には「人生前半に頑張って成功した人(ストライバー)」に向けて書かれているっぽいんですよね。
でも、そんな人、少数じゃないですか?
それにこの本の内容自体は、それ以外の人、たとえば成功していない人とか、そんなに働いたわけじゃない人とか、頑張ったけど報われなかった人にとっても有益なことがたくさん書いてあるんです。
だから。
僕は、この本を「(ストライバーじゃなくて)万人向けの本」と、脱構築しながら読みました。
それでも、とても良かったです。励まされたし、いくつかの道しるべも示してくれました。
この本では、「人生の後半戦では、能力はむっちゃ落ちるし、人生は落ち込んでいく」という前提からはじまります。誰でも絶対そう。
この状況に抵抗しても、成果は出ないし、心身にも、周囲にも、そして人生にも悪影響です。
でも、LIFE SHIFT曰く「人生100年時代」だから、生きてはいかないといけない。
落ち続ける中、どう生きていくのが良いんだろう?
著者は、自身が直面しているこの課題に、正面から取り組んでいます。
他の本やYouTubeでよく言われることもたくさん書いてある一方で、他ではあまりお目にかからない新しい視点も多数出てきて、著者が一生懸命調べ、誠実に考えているのがわかります。
● キャリア
本書で主張しているのは、まずはキャリアのリセットです。
心理学でよく言われる「流動性知能(いわゆる能力。若い時に最大)」を使う仕事から「結晶性知能(経験や知恵。年をとっても伸びる)」を使う仕事に移ることについて書いています。
しかもかなり大胆に、思い切って今までのものは捨てる。まるで、「徐々にスムーズに移行なんかできないから諦めろ」と言わんばかりです。
まぁ確かに、人は慣れ親しんだものにしがみついてしまいがちです。
それでも著者は、キャリアのリセットを積極的に準備することを勧めてきます。
どんなキャリアか?は人によるのでしょうが、成功失敗じゃなくて、楽しくでき、かつ意義を感じること、つまり「興味を引かれること」をリトマス試験紙とすることが書かれていました。
あとは(歳をとればとるほどやりにくくなりますが)、考えないで飛ぶことが大事です。
● 人間関係
人生を充実させるものは友情だとも書かれていました。人間関係を築き育むために時間と根気を使って練習しよう、と。
この点について出てくる、息子との会話は、とても印象的でした。
ある日、バカンス中の筆者に、取引先のお偉いさんから電話がかかってきます。電話が終わったあと、息子に「誰からの電話?」と聞かれ筆者はこう答えました。
「友だちからだよ」
続く息子の質問は、とても鋭いものでした。
「Deal(取引)の友だち? それとも、Real(本当)の友だち?」
取引で繋がるのとは別の人間関係が必要だと、この本では説きます。そのためには、「弱さをさらけ出す(弱くないフリをするのを止める)」こと、「内発的な価値観を表に出す」こと(例:「私は弁護士です」ではなく「私は成人した3人の子どもの母親です」と自己紹介する)、「喪失や辛さや落ち込みを素直に認め分かち合う」ことなどが、過去の文献や自身の経験などから語られます。
● 人生
キャリアや人間関係と関連して、人生の目標を設定し直すことにも、折に触れて書かれていました。
インドで師と会話したエピソードは、この本を他の人生本やビジネス本と一線を画すひとつの特徴になっています。
筆者は、師に質問します。
「歳をとると長年努力して身につけた能力を失い、苦しむ人がたくさんいます。新たなライフステージへ移るのは難しいし、恐ろしいことですらあります。そのような世代へ助言をもらえませんか?」
師は、インド哲学における「家住期(世俗的なもの)から林住期(精神的なもの)への移行」を説明した後、漠とした、こういう答えを返します。
「自分を知ることです。それが全てです。他に何をしても解放されません」
「自分を知るにはどうすれば?」
「自分の中へと分け入るのです。心が研ぎ澄まされれば、あなたを待つ秘宝に気づくでしょう」
たとえば、あなたが家族(両親でも、子どもたちでも)と一緒に正月を過ごせるのは、あと何回くらいでしょう?
そういう視点から見ると、時間の大切さを改めて実感するし、大切な時間を過去を維持することに使うのはもったいないようにも思います。
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この書評は、本当はすごく短く書くはずだったのですが、妙に長くなってしまったので、この辺で止めておきます。
35歳以上くらいの人で、ちょっとでも気になった人はどうぞ。