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「カフェをはじめる」と聞くと、なんだか失敗確率が高そうでドキドキしてしまいますが、もちろん、繁盛しているカフェもたくさんあります。
自分が好きなカフェが、地元に愛され、噂を聞きつけた遠方の客もいて、メディアでも紹介され、さまざまな横展開がおこなわれているのを見ると、こちらまで嬉しくなり、足繁く通うとか、友だちにオススメするとか、Google mapで推薦するとか、定期的に通うとか、いろんな形で応援したくなります。
応援してくれる人が多いカフェこそが、息長く繁盛し続けるのだと思います。
僕にとっては、それは鎌倉のカフェ・ディモンシュや、吉祥寺のウッドベリーズ・マルシェやチャイ・ブレイクです。
本記事で紹介する本『ゆっくり、いそげ』は、そんな人気カフェのひとつ、西国分寺のクルミドコーヒーの店主が書いた本です。
この本、とても心が洗われるし、気持ちが前向きになるし、社会への理解が深くなります。読みやすくもあります。良書です。
クルミドコーヒーの成功要因の分析と実践が深いんですよね。著者(=店主)は東大→マッキンゼー→VCという、筋金入りの優秀民なので、今の資本主義経済については熟知しているのですが、それに対して、自分の言葉で考え直し、反対意見を持ち、実践しています。
たとえば。
贈与経済について。
モースの『贈与論』に出てくるポトラッチを引用する、といった安易なことはしません(しかしその議論は知っていることは匂わせる)。
あくまでもクルミドコーヒーでの実践、美味しいコーヒーやスイーツを出すとか、心地よい空間を作るとか、そういった「ギブ」に集中することで、さまざまな形の「テイク」がおこなわれることについて書いています。
テイクはもちろん料金の支払いもありますが、「こんな値段でこんな良い体験をさせてもらってありがたいな」と思ってもらえれば、料金として支払いきれなかった分のエネルギー(本書内では「健全な負債」と呼んでいます)が、再来店に繋がったり、良いクチコミに繋がったりして、カフェが持続可能な成長をしていきます。
逆に、ギブした分を全て支払ってもらうと、そこで精算が済んでしまい、カフェが成長しません。
とか。
一時が万事全部こんな調子で、自分が体験として知ったことを、自分で考えた言葉で書かれています。
だから、読んでいて、新しい言葉ばかりで新鮮に感じるのです。僕はアメリカの「データたくさん集めたしインタビューもたくさんしました」系の本が好きなのだけど、そういう本からは摂取できない栄養素がこの本にはあります。「そんな秘伝のタレみたいな大事なこと、そんな気軽に教えてくれちゃっていいんですか?」みたいな。
超高度資本主義経済の中で生きてきた著者は、それとは真逆のような「カフェの経営」を通して、今の成長一辺倒ではない、もっと持続可能で、地域にも貢献できて、関わっている人たちみんなが幸せになるような経済圏の形はないか、考えていきます。
そして、考えた結果を、カフェという場で実践していきます。
実践した結果、新しい、ではないな、より「落ち着いた」経済の形が見えてきます。
話は最後にはGDPにまで及びます。壮大。
こんな風に考えや経験を丁寧に執筆してシェアしてくれて、著者の影山知明さんには感謝!です。
興味が湧いたら、一度読んでみてください。
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