「SF小説のが読むのしんどい。気合いが必要」という話を聞きました。
気持ちはすごくわかります。
SFって、頭に入ってきにくい独自用語を使うことも多いし、物語の雰囲気を重視して、非常識なことでも説明せずサラッと流したりすることもありますしね。
僕も昔、悩まされたことがあります。
でも。
とある読み方を思いついてから、SF小説の読みにくさで苦しむことがなくなりました。
SF漫画を読んでるくらいの感覚で、スラスラと楽しむことができます。
今日はその方法、名付けて「1/4リセット読書法」を紹介します。
● 1/4リセット読書法、概要
1. まず頑張って1/4くらい読む
2. 最初から読み直す
以上です。これだけで、まるで魔法のようにSFが読みやすくなります。
● 1/4リセット読書法、解説
この読み方を発見したのは、ウィリアム・ギブスンの出世作『ニューロマンサー』を読んだときでした。まだインターネットが商用化される前で、ネットというもの自体がまるでイメージできなかった時代です。
最初、訳がわからなかったんですよね。千葉とかカプセルホテルとか、日本由来のモチーフがたくさん出てきていたにも関わらず、情景も頭に浮かばないし、キャラが何をしているのかさっぱりわからない。
挫折しました。
1ヶ月後、「続きを読むか……」と手に取ったのですが、どうせ意味分かってないんだし、と、頭から読み直すことにしてみました。
すると!
不思議と、情景がイメージできるじゃないですか!
キャラが活き活きと動き喋りはじめるじゃないですか!
この小説がどんな世界で、どんな話なのか、まるで苦労せず理解できるじゃないですか!
びっくりして、何故だろうとひとしきり考えました。
このカラクリは、自分が思うに……
人は、聞き慣れないもの、見慣れないものが出て来たとき、いったん立ち止まって、まずはそれがなんだか把握しようとする。
しかし、特にSF小説は、世界観や雰囲気、スピード感を重視して、見慣れないものをいちいち解説せずに、物語を先に進めてしまいがち。「読み進めてればわかるから、ついてきてよ」というスタンスのものが多い。
そして「わからないまま読み進めなきゃいけない」のが不快で、「読むのに気合いがいる」ということになってしまう。
ただ、実際のところは、重要な概念や用語やギミックは、物語の前の方に出てくることが多い。ヒントも(話の腰を折らない程度に)説明されていることが多い。
作者もできるだけ親切にして、早めに読者に受け入れてもらおうと思ってるんですね。
しかし、作者が想像する理解の速度と量が、実際の読者のそれと乖離しているんじゃないか、と。
そこで、この「1/4リセット読書法」の出番です。
序盤で早々にリタイアして、最初から読み直すと、見慣れない単語や文体、言い回し、ギミックなどなどが「2回目」になります。
不思議なもので、2回目になると、「ああ、そういうのがここで出てくるのね」と受け入れられるようになります。「立ち止まって、まずはこれがなんだか把握しよう」という拒絶感が薄まるのです。
あとは作者の思惑に従って読み進めれば、理解すべきタイミングでしっかり説明されて、理解度100%になります。
ポイントは、「理解できてはいないけど、目にするのが2度目だから、いったん気持ち的に受け入れられる」という点です。これがSF読書の心理的ハードルをグッと下げてくれます。
● 1/4リセット読書法、実践
ちょっと、この方法を、試してみます。
まずはみんな大好き『三体』です。
僕の三体の感想は以前に書いた通り、「最初の2/3はつまらない。後ろの1/3はマジですごい」です。
「最初20ページくらい意味不明なまま読み進め、その後で読み返す」とは違いますが、効果としては似たものを感じるんじゃないかと思いながら、読み返してみます。
すると。
最初の1ページ目から、もう、とても面白いじゃないですか!
文革の緊張感がひしひしと伝わってきて、葉文潔の追い詰められ方も心に響くように伝わってきます。
次に、挫折していた『マーダーボットダイアリー』。
面白そうな予感はあるんだけど、専門用語が多すぎてダルくなった作品です。
これは、まず20ページくらい読んで、その後、最初から読み返します。
すると。
何もわからないことがない! 自分のことを「弊機」と名乗る主人公可愛い😍! 相手のネット網をハッキングしながら物理的に攻めていく二重感も、細かく(一言でだけど)説明しながら話が進んでいる。何よりも主人公の「人間と機械の間」な心境の変化がユニーク。
最初に「しばらく読んだからまた最初に戻るからな」と決めておくと、読みはじめるハードルも低いです。
我ながらオススメな方法だなあと思いました。
とても難解な純文学に対しては、この方法でもまだ足りないのでしょうが、エンタメ系であれば、だいたい行けるのではないでしょうか?
この方法で、次は僕は『精霊を統べる者』を読もうかと思います。ネビュラ賞、ローカス賞、イグナイト賞、コンプトン・クルック賞の4冠を獲った話題作です。