落合信彦x落合陽一『予言された世界』を読んだ。
落合信彦といえば、国際社会系の本で一世を風靡した国際ジャーナリスト/コラムニスト。40代〜60代で多大な影響を受けた人も多いと思う(僕も読んでた)。
一方、落合陽一といえば、ほぼ何に対しても独自の解釈と表現をこなすメディアアーティスト/科学者。10代〜30代で多大な影響を受けた人も多いと思う(ウチの娘も好き)。
この2人が親子というだけで、僕にとっては最高に楽しい。
全く違うスタイルの2人はどんな会話を交わすんだろう? 2人は互いをどう思ってるんだろう? 信彦さんが本の中でときどき言及していた「息子」って陽一さんのこと? などなど、妄想が膨らむ。
そんな、ちょっとワイドショー的な興味を、ある程度満足させてくれようとしているのがこの本だ。
読んだ。
非常にエモかった。いろんな感情が湧いてきた。
まず、この本は、期待していたような内容ではなかった。
ぽくが期待していたのは、全ページに渡って対談が繰り広げられるという本だ。国際政治と現実について。テクノロジーと未来について。子どもの頃の思い出について。互いに相手に抱いている想いについて。さまざまなトピックを、互いが互いに得意な部分を教え合いながら、違いを認識し、同意できる点を探す。そんな本を期待していた。
しかし、対談は全186P中、たったの8P。
残りのページは(「とある1章」を除いて)全てそれぞれがそれぞれの分野についてのエッセイを書いている。
しかもその対談も、すれ違っている。信彦さんの方はずっと国際政治の話をして、陽一さんの方は世界の話をしつつも、自分の領域、たとえばテクノロジーで行動が変化した人類みたいな話をぶっ込んでくる。ずっとその繰り返し。
両方のファンとしては、「ええっ!? もっと、個人的な話や家族の話をしてよ!」という気持ちになってしまう。
ただ、ですね……
わかる。すごくわかるんですよ。
父親と息子って、こういう感じになりがちなんすよ。
なんて言えばいいんだろうな。
もちろん全員がそう、と決めつけるわけじゃないけど、よくある傾向として……
父親は、社会人として立派に独り立ちした息子に対して、人生の先輩っぽく振る舞いたがる傾向にあるんですよね。
で、自分の得意分野(この場合は国際政治)について語ったり、教訓めいた断言をしたりする。
「会話」というよりも「教える」というニュアンスになりがちです。
それは、親という矜持から来る態度なのかもしれないし、あまり子育てに関わってこなくて昔話しようにもネタがないからかもしれない。
一方、息子の方は、もうちょっと違うものを求めがちなんですよね。
陽一さんにもピッタリ当てはまるかはなんともだけど、自分の実績を知ってもらって認めて欲しかったり、あるいは、昔の思い出について、「あのとき本当はどう思っていたの?」「あのときの僕はどう見えていたの?」と答え合わせをしたり、一般的な教訓ではなく、アヴィーチーじゃないけど親から子にだけしか伝えられない「人生の真実」的な秘密のメッセージを聞いたりしたい。
「人生の先輩として振る舞わなきゃなんねぇ」という親と、「人生の先輩っていうよりも、親だから、親子ならではの話ってあるよね」という息子とは、まあすれ違う可能性も高いんでしょう。
ただ、すれ違うといっても、父親はさすが人生の先輩ならではの面白い話を惜しげもなく披露してくれるし、息子も子ども時代とは違う深いトークができるようになっているので、それはそれで面白いんですけどね。
父親というものは、ヨーダみたいなマスターではないので、必ずしも、天啓のような教えを息子に授けられるではありません。
しかし息子の方は、父親との何気ない記憶の中から、天啓のようなメッセージを探し、それを大切にしがちです。
陽一さんにも、そういうメッセージがあったようです。
それが上記に書いた「とある1章」で紹介されています。
ネタバレになるので内容は伏せますが、この「とある1章」が、この本をまとまりのある1冊にしています。この章がないと、互いが互いの主張を並べているだけの平坦な本になっちゃう。
この章で、陽一さんは、自身が子ども時代に何をしていたかとか、子どもの頃に信彦さんに言われたこととか、自分から見た父親評などを語っています。
そんなにエモく昔話をしているわけじゃないんですけど、僕は行間をむっちゃ読んで感動しちゃいました。
父親が用意した、自由で多様性のある環境。その中で好きなように感性を育てていった子ども時代。
この章は落合陽一さんへのインタビューなのですが、僕は、いかにも落合信彦さんらしい、ドライだけど芯の通った愛情を、ひしひしと感じました。
だって、落合信彦の息子だったら、絶対に空手とかやらせてそうじゃないですかw
それが、マジック・ザ・ギャザリングの大会で優勝したって、どういうことw?
それ聞いて、信彦さんどう思ったw? そもそも何の大会だか分かってたw?
この、懐の広い家庭環境。
それと、陽一さんが信彦さんのとある一言をよく覚えていて大事にしまっていること。
落合マニアである自分としては、この(いかにも父子的な)不器用な情のやりとりに、尊さを感じるわけです。
その他、親以外のたくさんの大人を見てきた後での、1人の人間としての陽一さんからの落合信彦評とか、息子と共著を出したことに対する信彦さんの想いとか、マニアとしての見どころはたくさんあるのですが、まあそれは本全体からすると本質ではないので「あるよ!」ということだけで留めときます。
字も大くてすぐに読めるし、2つの全く異なる文章、落合陽一さんの抽象度が高く参照先が多い文章と、落合信彦さんの読みやすくてエンタメ性が高い文章を並列で読めるのはここだけ!
マニアにはオススメです。