僕には何人か、特に明確な理由も利害関係もなく、気になってしまう人がいます。
その人の動向や発言を追ってしまう。おそらく僕の、言語化できない無意識のどこかに触れている人。
そんな人のひとりが、小野龍光くんです。
過去にも何度か小鳥ピヨピヨで書いたことがありますが、同世代最強の連続起業家/ベンチャーキャピタリストの一角でありながら、北極マラソンなどのエクストリームなスポーツをハイテンションでこなす人。
そして最近、全ての仕事と財産と地位と人脈を投げ捨てて、インドで出家し、まるで人が変わったように穏やかになり、トー横とか山奥とかで寝泊まりしたり、人の悩み相談に乗ったりしている人。
そんな小野くんが、さまざまな縁が繋がった末に、本を出しました。
それが香山リカさんとの対談本『捨てる生き方』(Amazon)。
この本がとても良かったのです。
香山さんは、いつもの(ちょっと意地悪な)ズバズバと攻めていくスタイルで、突っ込んだ質問を浴びせていきます。
小野くんは、それに自然体に答えていきます。
彼は、ビジネスをしているうちに、数字を追いかけること、より多く儲けること、より成功することを目指すスパイラルに嫌気がさし、「もうこれ以上は無理だ」と心が壊れそうになって、仕事を離れたのだそうです。
そして、その後のインド旅行で出会った、インドの仏教復興運動の中心人物のひとり佐々井秀嶺さんから
「おまえ坊主になれ!」
と言われたことをきっかけに、今のような急転身を遂げました。
全てをゼロリセットして、ただ目の前の人のお役に立てる部分があれば、喜んでそれをさせていただく。
なんの戦略もアセット活用もなく、身一つで、今・ここに向き合っていく。
そんな風にして、自身の寺も持たず、布教活動をするわけでもなく、日々生きている。
一方、香山さんも、最近大きな変化があったそうです。
東京の大学教員と精神科医という職を捨てて、北海道の僻地の診療所でお医者さんをしているとのこと。そして、そこで出会う人々の、厳しい大自然の中で生き、過度な治療を拒み自然に死んでいく様に、大きな衝撃を受けたとのこと。
そんな2人が、「生き方」や「人間関係」から「病気や死」に至るまで、あらゆるトピックについて、「読む人の心が少しでも楽になるように」と自分の考えを提示していく、この本はそんな本でした。
名言だらけ、というわけではなく、もっとしみじみと「なるほどー、そうだよなー」と、気持ちが和らぐような言葉が多いです。
なんだろうな、なんで小野くんはこんな急変したのかな。
「苦しみの元になっているものを、これ以上ないほど徹底的に捨てたから」ではあるのですが……もう一歩深く見つめると、僕の印象としては、小野くんは、すでに自分の死を受け入れているんじゃないかなという気がしました。
もちろん現実に死が迫ってきたときはわかりませんが、少なくとも現時点では、自分も死を免れることはできないという現実を肌感覚で受け入れ、そんな自分は何をしたら心が喜ぶのだろうという命題に正面から向き合ったのでは、と。
その結果、「人の役に立ちたい」「思いやりを持ちたい」「そこに数値目標を置きたくない」「戦略も持ちたくない」ということをシンプルに実行したい、という結論に至ったのではないかな、と。
死という最大の困難を受け入れていれば、他のことは、ぶっちゃけ些事ですよね。
小野くんや香山さんのような行動をいきなり取れる人は少ないかもしれませんが、小野くんはこう言っています。
自分の残り時間はいつだってわからない。まずは、ゆっくりと自分に向き合い、今に向き合い、今の自分が少しでも喜び、信じられる目的に向かって使えていれば、不安や焦りは消えていくのではと思っています。
僕も、「心が喜びそうな方向ってなんだろう?」ということを、より深く真剣に考えたいです。いや、考えるというより、感じるのが大事かな。