夜9時ごろ。
1000機のドローン(!)が空中に描くさまざまな模様に心奪われながらも、同時に、歩きすぎて傷んだ足首をさすった。
「明日も同じくらい歩くんだよな……」と覚悟しながら。
* * *
先日、急に、
「万博行くなら今しかないんじゃないか?」
と、焦りを感じた。
万博、やけに盛り上がっている。
多くの人が「絶対また行く!」とか「通期パスを買う!」と興奮している。
きっとこれから、どんどん混んでいくんだろう。
あと、夏は暑いし、涼しくなる10月には、万博が終わってしまう。
仕事も、これから忙しくなっていく気配だ。
つまり、今だ。
今しかない。今すぐに行くのだ。モチベーションが萎む前に行くのだ。考えるな。ノータイムでポチリするのだ。
慌ててもろもろを予約した。期間は1泊2日。
宿は……奇跡的にドーミーインを安くとれた。
新幹線も……無事ゲット。えきねっと難しい。「自由席でも時間を指定しないといけないが、その時間は守らなくていい」という仕様だと分かるまでかなり悩んだ。
そして万博チケットは……
もはや記憶に残っていないほど、ページからページへと移動し、アプリをインストールし、アプリからサイトにログインし、またアプリをインストールした。動線はひとつも理解できないのだけど、全てを諦めて、流されるまま目の前のボタンを押していたら、どうやらチケットを取れたらしかった。結果オーライ。
一部解説サイトに「チケット取るだけじゃダメ。予約しないといけない」と書かれているけど、予約してからじゃないとチケットとれないから、心配しないで大丈夫。
情報も集めはじめた。
まず、パビリオンの予約は、序盤のボスにしてはやけに手強かった。
7日前抽選(ほぼ外れる)と3日前キャンセル待ち予約(ほぼ取れない)と当日予約がある。当日予約は万博Webアプリで行うが、UIが無理。「現在予約を受け付けているパビリオン一覧」を表示してくれないから、お目当てのパビリオンを狙い撃ちで検索するか、全パビリオンを表示して選ばなきゃいけない。当然取れない。
かつ、落合館とガンダム予約は当日決まった時間に新しい予約枠を開放する(落合:12、14、17時 ガンダム:12、15、17、19時)。
かつ、石黒館と福岡館は別に当日キャンセル待ち予約システムがある。
かつ、イタリア館は専用アプリで予約できるらしい。
ややこしい。狂気を感じる。
ところが、結構な数のパビリオンが、実は夕方以降は予約なしでも数十分並ぶだけで入れちゃったりする。個人的には予約は「取れたらラッキー」な宝くじくらいに捉えて、nobiさんが言うように「現地行って運命感じたパビリオンに並ぶ」のが良いと思う。
予約バトル、公式システムで予約しようとすると「必要情報だけ見て不要情報をフィルタリングするために検索したはずなのに、なんで不要情報を再び表示してるの?」とか、あらゆる方法で神経逆撫でて、費やした全ての1秒を後悔に変えるシステムなので、現地行って運命感じたパビリオンに並ぶのが吉です
— Nobi Hayashi 林信行 (@nobi) May 13, 2025
あと、事前に万博に行ったことのある諸先輩方からもアドバイスをもらった。
友だちからの情報はマニアックかつ具体的でありがたかったし、SNSの情報もよくまとまっていた。万博関連の情報はThreadsが意外と豊富。僕も食べ物情報でお世話になった。
* * *
いざ万博へ。
朝イチの新幹線に乗ったのだけど、会場に着いたのは11時。
当日は28度で、日も照っていた。日傘は必須。
ゲートには人がたくさんいたが、人は流れている。ストレスはない。
ゲート近くで、スタッフさんがこんな注意をしていた。
「お酒は禁止です。初日に一升瓶を6本持ち込もうとした人がいたんですけど、取り上げました。返しませんでした」
豪快すぎる。宴会する気だったか?
大学生らしき2人組が、こんな会話をしていた。
「マスコット、なんて名前だっけ?」
「ニュルニュル様じゃん?」
せめてマスコットキャラクターの名前くらいは覚えてから万博に来ようよ!
カップルが、
「ねえ、あちこちで25って数字を見るけど何?」
「2025年のことだよ、ハニー」
と愛を囁きあっていた。話の内容はなんでもいいんだな……
入口では、「俺、顔パスやねん」と言って、QRコード端末に顔を近づけているおじさんがいた。
何を勘違いしちゃったんだろう……
さすが大阪、ということなのか。万博への興奮で皆が浮き足だっちゃってるのか。
ここはタリーズじゃないのにタリーズ臭を感じる。
入ると、中は広々としていた。
高い建物がないせいで、空も広くて気持ちいい!
まずはお腹が空いたので、オススメしてもらっていたマレーシア館の食堂に行った。
お兄さんがパフォーマンスしながら料理を作っていた。ロティーチャナイというカレーみたいなのを注文。万博めし!といった感じで美味しかった。ちょっとこぼれていたのは万博だしご愛嬌。
食事している近くで、ヒジャブを被っているのだけどストリート系のファッションな女性3人が、マレーシア館をバックに、代わる代わる映え写真を撮っていた。
万博では、あちこちで、いろんな国の人たちが、同じようなポーズと表情で、SNS用の写真を撮影している。そんな光景に不思議と人類の一体感を感じた。
お腹いっぱいになったので、本格的にパビリオンを周りはじめる。
今日は夜まで慌ただしくパビリオンを巡る予定だ。
まずはフランス館かアメリカ館か、どちらかに行くことにした。
どちらも同じくらい並んでいるのだけど、フランス館の方が回転が早い。あと、フランス館の方がオシャレ。
フランス館にした。
これが大正解だった。
フランスといえば、「ルーブル美術館みたいな中世アート系」か「今につながるファッションやブランド系」だけど、今回は後者に全振り。ルイ・ヴィトンのロゴでダイソン球みたいなのを作ったり、ディオールの服のミニチュアや現物がミッチリと壁を埋め尽くしていたりして、やりたい放題で愉快だった。ところどころに忘れられたようにロダンの彫刻も置いてあって、いちいち驚かされた。
その後は「コモンズ」に行った。
コモンズは、独立してパビリオンを出すほどではない国々が共同で出展している施設のこと。AからDまである。
まずはコモンズAに行った。
いろんな国のそれなりに工夫したものを一度に見れて楽しい。
ボリビアで生演奏を、サモアで擬似ビーチを、スリランカで紅茶を堪能したりした。
ここでピンチが発生。
スマホの充電が切れかかったのだ。
僕のiPhoneはProのMaxなので、そうそう滅多なことでは充電切れにはならないのだが、動画を撮りまくったせいかなんだかわからないが、足りなかったらしい。
急いで入り口近くに充電ステーションに向かう。30分くらい充電していたが、時間がもったいなかったかな。待っている間、ミャクミャク様の写真を撮ったりしていた。
予備バッテリーは日傘と共に必須アイテムだと思った。
UAE館が並ばずに済みそうだったので入った。
これもとても良かった。大きくて良い匂いがするナツメヤシの幹がたくさん並べられていて、異国情緒がたっぷり。映像も「観ろ」という感じじゃなくて、座って休んで、ついでに観て行ったら?くらいの気楽さで居心地が良い。
万博のパビリオンの作り方として、「シアター型」と「展示型」の2種類がある。前者は見たり体験したりを強制的にさせるもの。後者は客が自由に周回できるもの。
前者は時間を取られるので行列が長くなる。後者の作りの方が回転が早く、客的には嬉しいと思う。
次はポルトガル館。
元々海洋国家だったのを意識してか、海がテーマの展示だった。いろいろな見せ物があった。個人的には、ヨーロッパの世界の認識の仕方の変化を映像でマッピングした地球儀が面白かった。
夕方になった。
夜に夕食を取れるかどうか不明だったので、近くの大きなフードコートに入ってうどんを食べた。
これで1980円。まあ万博価格ならこんなものかな。
落合陽一パビリオンの建物を見た。
予約はいっぱいで入れなかったけど、外から見るだけでも独特で楽しい。生物的なような、生命の気配など全く感じさせないような、不思議な建物だった。金属が震え脈動している。これが計算機自然なのか?
コモンズDに行った。
アンティグア・バーブーダでスティールパンを叩き(綺麗な音!)、どこかの国の展示のジャンベを叩き(深みのある音!)、パキスタンでピンクの岩塩たちに囲まれたりして過ごした。
その後は万博の中央へ。
万博の中央は、敢えて、何もない。緑と小池がある「静けさの森」になっている。
人もあまりいない。とてもゆったりとした時間が流れているので、「せっかく万博に来ているのに、ここでチルるのもったいない」という気持ちが働くのだろうか。
僕はしばらくチルった。
奇跡的に、シグネチャーパビリオンの当日予約をゲットできた。
小山薫堂プロデュースの「EARTH MART」。食について考える展示だ。
ものすごく良くできていた。「へぇ」と感心する食の情報や、未来の食についてのアイディアが、それぞれに工夫を凝らして美しく並べられている。
とても優等生的で、今回の万博のテーマである「いのち」に、食の観点から真正面から取り組んだパビリオンだった。かなり感心した。パビリオンを出たとき、世界の見え方が少し変わったような気がした。素晴らしい。これは可能であれば実際に体験してみてください。
ブラジル館に行った。
意外にも、サンバなどのアピールは少なくて、現代アート色が濃いパビリオンだった。パビリオンの入り口にも、「我々の存在の真意とは」という哲学的な言葉が飾られている。「こういうブラジルもあるのか」と感心するという意味では成功だろう。
アイルランド館に行った。
ケルト色が濃い展示だった。現地の自然を模した展示にはとても癒された(良い匂いもした)し、映像もケルト的な神秘性を押し出していたように思う。個人的に好きなパビリオンだった。
その後は、夜の水上ショーとドローンショーの鑑賞。
どこで見るか迷ったが、上から見ることにした。
上から見ると、水上ショーはちょっと何をしているのかイマイチ分かりにくかった。残念。
一方で、ドローンショーは迫力満点だった。1000機のドローンのプロペラが回る「ブーン」というが聞こえるほど近い。ドローンたちはさまざまな模様を描く。途中で立体映像のようなものを夜空に描いたときには、思わず「すごっ!」と声が漏れた。感動した。
ドローン様たちは、ショーが終わったあと、直々に出口の方角を示してくださった。
これで1日目は終了。24,000歩歩いた。
帰りに、夕食を食べようと定食屋に入ったら、東京卍リベンジャーズみたいな格好をしたガチのヤンキーと相席にさせられた。
4人席にヤンキーと僕の2人。気まずかった。「あの、醤油……」「あ、すいません、どぞ……」みたいな最小限の会話だけで済ませた。ヤンキーはイヤホンなしでドラマを見ていた。食事中含め、1度も目を上げなかった。きっとヤンキーも気まずかったのだろう。ごめんなさいね……
* * *
2日目。
僕は入場が12時で、18時には出なくちゃいけないので、今日は列に並んでパビリオン見学はできない。
だから、まずお土産を買って、それから「リング」を散歩した。
「リング」は、万博をグルリと取り囲む、巨大な木造建築物。今回の万博の目玉だ。
高さ20m。その名の通りリング状になっていて、リングの下も屋上も歩ける。1周2kmほどで、2周するとなんとなく万博の概要を把握できる仕組みだ。
実際にリングのそばに行くと、その大きさに驚く。
まずは下を1周した。さまざまなパビリオンが外で音楽イベントをやったり巨大スクリーン映像を流していた。
寄り道もいくつかした。
「夜の地球」。輪島塗の大型地球儀だ。黒と金のコントラストが美しい、和の粋が詰まった展示だった。ガラスに囲まれて反射していたのが残念。湿度管理のために仕方ないのかな……
ランチはアフリカンダイニングホール「PANAF'」。
ここはフードコートの建物の2階にあり、かつ看板を出していないので、穴場みたいになっている。
料理は安くはない(3900円)がとても美味しく、量もたっぷりあった。味もきっと本格的なのだろう、焦がしたせんぺいのような、味わったことのない香りがした。ライブ演奏もしていて、満足度が高かった。オススメ!
話題のガンダムも見た。
いつものガンダムならとらなそうなポーズをしているが、これが直立不動よりもガンダムの大きさと迫力をよく表現していた。
これが機動戦士かー。こんなのに襲われたらたまったもんじゃないな、と、モビルスーツの怖さを実感できた。
1周してから、今度は屋上に上がって、もう1周歩いた。
当日は曇りで、風も吹いていて、とても気候が良かった。多くの趣向を凝らしたパビリオンの建物を眼下に眺めながら、優雅に散歩した。
こりゃ気持ちいいわ。この大阪万博は、たとえどのパビリオンも混んでいて入れなかったとしても、リングを歩ければ100点と言っていいと思う。
コモンズBとCに行った。
ジャマイカブースでは、サウンドシステムのダンスのポスターがみっちりと貼られていて感動した。わかってんじゃん!
ガイアナのブースではジャガーやナマケモノの実物大ロボットが動いていて、工夫を感じた。
ウクライナのブースもインタラクティブで工夫がされていた。内容は今世界に向けて訴えたいことで、厳粛だった。ここは行列ができていた。
チリのパビリオンも入れたのだけど、シアター型で時間を取られそうだったので、途中で出てきてしまった。天文台と宇宙についての映像だったらしいけど、僕が見れたのは学者の人の挨拶のみ。残念……
ここでタイムアップ。2日目は21,800歩。
今回の旅で回った国々は28カ国でした!
* * *
以上で僕の万博は終了。
行ってみて、この万博にリピーターが多い理由がわかった。
1回行くと「万博の効率の良い周り方」がわかるのだ。
だから2階目以降は、より密度濃くさまざまな体験ができる。たとえばスマホじゃなく設置されている端末で当日予約を取ったり(取りやすいらしい)、あらかじめスケジュールを確保して数時間並んでイタリアのパビリオン見たり、夜の水上ショーをスキップして多くのパビリオンを並ばず入ったりできる。
効率厨であればあるほど、この魅力に取り憑かれる。万博は広く見所も多いので、次はあれ目当て、今度はこれをメインに、と、いろんな切り口で楽しめる。大阪近辺に住んでいる人であれば、通期パスを買って、学校や会社帰りにフラリと寄ればいいだろう。
やっぱりお祭りは楽しいですね。無条件でワクワクします。
僕も、機会があればまた行きたいです。
【最後に。お役立ち情報まとめ】
●便利サイト
・公式サイト。チケット予約もここから
・万博マップ
・予約なりパビリオンマップ
・EXPO2025 Visitors(アプリ)。必須
・EXPO2025 Personal Agent(アプリ)。アプリとしてはこっちの方が便利
・Itly Expo 2025(イタリア館アプリ。ここから予約できるらしい)
・石黒P、福岡P専用キャンセル待ちサイト
・パビリオン待ち時間
・Discord「だれでも万博」。ちょっとした質問もこちらで
・Threads、インスタ、Xなどで「万博」で検索
・お土産売り場紹介
・大阪・関西万博レストラン・食事メニュー完全攻略!絶品グルメ&マップ付きガイド。他、各国パビリオンでも食事を提供しています
●必須装備
・日傘
・スマホの充電バッテリー
・地図。やはり紙は便利。万博マップから、できればA3版を印刷してください。あと、予約なりパビリオンマップが意外とコンパクトに必要十分な情報が乗っていて、使いやすかったです。僕はスタンプも地図の裏に押してました
・飲み物
●今回行った主なパビリオンやスポット
・マレーシア館(食事)
・フランス館
・コモンズA〜D
・スマホ充電スポット
・UAE館
・ポルトガル館
・ウォータープラザマーケットプレイス東(食事)
・静けさの森(万博中央)
・EARTH MART(シグネチャーパビリオン)
・ブラジル館
・アイルランド館
・アオと夜の虹のパレード(水上ショー)(リング屋上から。非推奨。下から見た方がいい)
・ドローンショー(リング屋上から。推奨)
・リング周回(下と屋上)
・丸善ジュンク堂書店オフィシャルストア(お土産)
・近鉄百貨店オフィシャルストア(お土産)
・夜の地球
・アフリカンダイニングホール「PANAF’」(食事)
・ガンダム(外からのみ)
・null2(ヌルヌル)(シグネチャーパビリオン)
・チリ館