トイレの詰まりを直したことを記録しておこうと思う。
しかし、基本的に美しい話ではないので、ところどころ抽象度を上げて書くことにする。
先日、夜遅くに帰宅すると、家のトイレが詰まっていた。
ファンタスティックが流れないまま、水に溶け込んで滞留している。
この前詰まったのは2年前だったか……
そのときは、スッポンを使ったらすぐに直った。スッポンすごい。
今回も、まずはスッポンを試してみる。
スッポン、スッポン、スッポン……何も起こらない。
トイレの中でファンタスティックに溜まっている液状の混沌が、かき混ぜられただけだ。
スッポンをすると、トイレ内のファンタスティックたちが、ときどきジャンプして、手につく。
最初は思わず怯んだ。最新の注意を払って注意深くスッポンする。が、やはりときどきはファンタスティックはジャンピングする。まるで小さなイルカのように。
しかし不思議なものだ。すぐ慣れた。
家族のファンタスティックだから、大丈夫なのかもしれない。
あるいは僕に覚悟ができていたから、大丈夫なのかもしれない。
いずれにしろ、何もかも投げ捨てて酒飲んでふて寝するほどではない。
スッポンは効果がなかったので、諦めた。
次は、以前有効だった方法を試してみた。
「流せるトイレブラシ」の柄の方で、奥の方を削るようにかき混ぜるのだ。
奥は奥でも手前の方が詰まっているときは、これでしつこくえぐれば、大抵は直る。
ブラシをそっと入れ、奥の方をかき混ぜる。
何度か方向を変えて、試してみる。
ダメだった。
まったく手応えがない。今回はこの方法は効かなそうだ。
業者を呼ぶことが頭をよぎる。
ただ、もうちょっと自分でできることがあるのではないか。
針金製のハンガーをほどいて一本の棒にし、トイレの奥に突っ込んでみた。
徐々にマスターキートンじみてくる。
1m以上は奥に入ったが、途中トラップで引っかかった。
この時点では僕はもういろんなことに躊躇がなくなっていたので、ファンタスティックの中に浸かった針金を引き抜き、手で曲げる方向を変え、さらにトイレに射し入れた。
おれは狂戦士(バーサーカー)だ。
さらに深く奥に入った。丁寧にかき混ぜる。
ガリガリという手応えしかない。これは陶器だろう。
30分ほどチャレンジしたけど、事態は改善しなかった。
ハンガー作戦も失敗だ。
でも……僕はほぞを噛んだ。
「もう少し針金が長ければ、イケたんじゃないか? この方法論自体は間違っていなかったんじゃないか?」と。
と、いうわけで、ワイヤーを買って、ファンタスティックの奥の奥、行けるところまで行くことにした。
買ったのはこれ。「Felimoa 回転式 5m/10m パイプ クリーナー ワイヤー」。
「パイプクリーナー」なんて、なかなか小洒落た言い回しを思いつくじゃないか。リスペクト!
今夜頼んで、明日届くらしい。ありがたい。ビバAmazonプライム!
ファンタスティックの海は、全く流れないわけじゃなくて、1時間くらい経つと半分くらいは減る(そしてその時点で止まる)。
減ったタイミングで、ネットで見かけた解決法を試してみた。
60度くらいの熱湯を入れるのだ。これで溶けてくれれば御の字。
お湯を(溢れ出ないギリギリまで)入れて、臭い防止のためビニールでトイレに蓋をして、寝た。
翌日。
直ってなかった。
ファンタスティックは、堂々とその場でファンタスティックしたままだった。
これはもう仕方がない。
今日届くワイヤーでもダメなら、業者だ。
夕方。
ワイヤーが届いた。
ワイヤーは本体にしまわれているが、抜き出してみると長い。5mもある。
希望が湧いてくる。
トイレに張ったビニールに穴を開ける。
そっとワイヤーを、ファンタスティックで満たされたドロドロした中に、射し入れる。
途中でワイヤーが引っかかる。
たぶんトイレのトラップのところだろう。しかしワイヤーは針金よりは柔軟だ。ファンタスティックができるだけジャンプして手足につかないよう注意しながら、ワイヤーを回転させた。
何も起きない。
諦めかけたちょうどそのときに、ずるり、と、ワイヤーが奥に入った。トラップを抜けたらしい。
ズルズルとワイヤーが挿入されていき、再び行き止まる。
もしかしたら詰まりかもしれない。ワイヤーをグルグルと回転させる。
ファンタスティックに特に変化がない。
もうダメかな……と思ったら、また、ずるり、とワイヤーが奥に入った。
どうもつまりじゃなくて、単に曲がり角で引っかかっていただけらしい。詰まりもまだ奥らしい。
だいたいこんな調子で、ワイヤーが引っかかっては、「そこが詰まりかな?」と期待しワイヤーを回すと、詰まりではなく単なる曲がり角で、またワイヤーが奥に入るというのを、何度も繰り返した。
ワイヤーが長く伸びすぎている。
もうとっくに部屋の外まで行ってるんじゃないだろうか?
それなのに、未だ詰まりは改善されない。ファンタスティックの海は、僕の目の前、薄く貼ったビニールの向こうで、不敵な笑みを浮かべている。
ワイヤーが引っかかる。
あとどれくらい伸ばせるんだろう? もう限界まで伸ばしちゃったかもしれない。
ここが詰まりでありますように、と、ワイヤーをグルグルと回した。
何も起きない。
詰まりも解消されないし、ワイヤーがさらに奥にもいかない。
業者呼ぶか……と、ほぼ諦める。
「パパー、トイレ直ったー?」という、のんきな子どもの声がする。「まだー」と返事する。
ワイヤーを、軽く押し込みながら、グルグルと回す。
ここまで来たんだ、せめて30分くらいは回そう、と決意する。
ファンタスティックは、いつにも増して元気に何度もジャンプしたし、幾度かはビニールを超えて僕の手にかかったりした。
まるで「諦めろ」「無駄だ」と呪いの言葉を浴びせかけられているようだった。
しかし、僕はひるまず、ワイヤーを回し続けた。
ずっと、何回も何回も、回し続けた。
微妙に押したり引いたりしながら、回し続けた。
詰まりが少しずつほどかれていますように……と祈りながら、手応えのない作業を続けた。
長かった。
10分くらい経っただろうか。
と、
突然、ぼこん、と音がして、ファンタステックがゴボゴボと吸い込まれていった
……やった! とうとう詰まりを直した!
信じられない!
なんの兆候もなかったのに!
ほぼ諦めかけていたのに!
恐る恐る、水を流してみる。まずは小。
……大丈夫だ。水が流れていく。
ワイヤーを伸ばす。
ずるりと奥に入る。
念の為ワイヤーをグルグルと回す。さらに奥に入る。
ワイヤーは、5mいっぱいまで、スムーズに入っていった。
ワイヤーを少しずつ引き抜きながら、何度も水を流す(ワイヤーを洗う意図も含まれている)。
何度流しても、詰まりは再現しなかった。完全にワイヤーを引き抜く。
トイレからビニールを外し、捨てる。
ワイヤーと、ファンタスティックに浸されたままゴミ袋に入れられていたスッポンとトイレブラシを、外に運び、ホースで洗う。
自分の手や腕を念入りに洗う。石鹸で何度も何度も洗う。
さて。
それから、トイレを掃除した。
流せるトイレクリーナーで拭く。ブラシ部分を外してトイレに入れ、緊張しながら流す。
……詰まらない!
大丈夫! 完全に直った!
業者呼ばずに済んだ!
いやはや、大変な1.5日でした……
あまりにもファンタスティックなファンタスティックに、ひるまず果敢に挑戦した自分を、褒めてあげたいと思います。



